103系3500番台「播但線」

103系3500番台「播但線」

兵庫県の姫路~和田山を結ぶ播但線。このうち電化されている姫路~寺前間で運用されているのが、今回取り上げる103系3500番台です。

3500番台改造時に施された40N体質改善工事(→「備考」も参照)により、内外装とも全体的な更新が施されています。一方で、先頭部分のフォルムが昔懐かしい「103系の低運転台」のままなのは特筆すべき点でしょう。2024年現在、営業路線上でこの“顔”が拝めるのは播但線が唯一です。

鉄道ファンの間ではほとんど話題に上がらない感のある103系3500番台ですが、実はかなり「貴重な存在」なのではと勝手に思う今日この頃です。さっそく車内を見ていきましょう。

【備考:40N体質改善工事・延命N40工事の違い】

1990~2000年代のJR西日本は、自社が保有する「今後しばらく使う予定の国鉄型車両」にさまざまなリニューアル工事を施していました。改造内容は時期・内容によって非常に細分化されており、この103系3500番台に施されたのは「40N体質改善工事(通称40N)と呼ばれる工事です。

これは「新造から40年使う」ことを想定し、内外ともに近代化(→「さらに補足」も参照)を図ったもの。播但線のほか、1995~2001年にかけて大阪環状線や奈良線などJR西日本各地の103系に導入されました。

なお、これとは別に「延命N40工事(通称N40)と呼ばれる改造グループがあります。1993年頃から施行され、車内面の改装は最低限にしつつ、腐食部分の修繕・窓を黒い“田の字”型に交換するなど外装面を中心に改造。かつては>>和田岬線の103系ほか、JR西日本全域で見られました。

このように40NとN40は名称こそ似ていますが、改造時期含め「全くの別物」です。

(さらに補足)
この40N工事の内容は、目立つところでも「劣化部品の総交換」「車内設備は当時の最新車(207系)準拠に改装」「窓は下部固定型に交換」「雨樋は車体と一体化」などとなっており、相当に手間のかかった工事となっています。

これがあまりに高価すぎたこと、各線で新車の導入が進んだため、後年の2002年からは「30N体質改善工事車」(通称30N)に移行しました。読んで字の如く「新造から30年使う」想定での工事で、外装の改造を40Nから大幅に簡略しつつ、車内設備の水準を40Nに近い水準に引き上げています。要は40Nの簡易版」とも言える改造でした。

モケット

(↑)座席

撮影日時・場所

撮影日時:2023年10月

場所:播但線 寺前駅 車内

備考

特にありません。

普通車 車内

車内に入ります。40N工事に伴って大がかりなリニューアルが施され、国鉄型車両と言うよりは(207系など)JR化後の車両の雰囲気を強く感じる気がします。

特に天井は、今日よく見かける照明カバー・ラインデリア付きタイプに全交換。座席下の金属カバーが、数少ない「一見で103系を感じる要素」でしょうか。丸い扇風機や、荷棚まわりのゴツゴツした支柱類は面影すら残っていません。

座席

座席(左/上)と、座面部分のアップ(右/下)。

座席は40N工事時に青系のモケットに交換されています。ただ、内部のスプリングは改造前から引き続いて使っているらしく、座るとバフッと音を立てて座面が沈み込む(語彙力)あの着座感が健在でした。

車端部

車端部区画の全景(左/上)と、座席の様子(右/下)。

播但線は全区間でワンマン運転を行うことから、車端部の区画には整理券発行機が設けられているのが特徴です。発行機の台は座席部分の仕切り消火器置き場(と場所によりドアコックの場所)を兼ねており、スマートな外観に。単に機器を設置するだけでなく、それによって生まれたスペースを有効活用する細やかな設計であるのが垣間見えます。

また、車端部連結面(妻面とも言う)の窓は、一枚窓化されながらも残っています。播但線はワンマン運転を行っていることから、乗務員の方が車内を見渡す際の便を図る目的と思われます。

車端部 優先席(トイレつき区画)

※トイレ内部は後述

寺前寄りのクモハ102はトイレが設置されており、写真がその様子(左/上)。

トイレ向かい側は優先席となっていますが、トイレに出入りする人と目線が合いやすい微妙に気まずい区画となります(右/下)。また消火器は優先席脇にありますが、103系の消火器はもともとはここが“定位置”でした。

【備考:103系3500番台のトイレ事情】

103系3500番台はトイレ無しでデビューしていますが、2005~2007年に全編成にトイレを設置する工事が行われています。

運転席直後 優先席

寺前寄り先頭車の運転台後ろは、見ての通りドア間全体がまるっと優先席になっています。全景(左/上)と、座席の様子(右/下)。

ドア間の7人がけが全て優先席というのは、実際に見ると写真で見る以上に圧巻です。各車決まった側に優先席を配置するためと思われ、JR西日本では(例えば)現代の321系でも見られる区画だったりします。いわばJR西日本車の“仕様”なのでしょう。

その他の車内設備

天井の様子(左/上)と、ラインデリア部分のアップ(右/下)。

冒頭でも解説の通り、天井周りは40N工事時に完全に交換されました。天井の中央を貫いているのはラインデリア(換気扇)で、空調の空気はラインデリア左右の吹出口から出てくる223系に近い構造になっているのが特徴です。

また、つり革も網棚から伸びた支柱に吊り下げる方式(>>参考:和田岬線の項)から、天井に固定された棒からさがるタイプになっており、これも321系など“現代のJR西日本の車両”でよく見られるデザインです。

荷物棚のアップ(左/上)と通路の様子(右/下)。

そういえば103系(のほか国鉄型の車両)の電動車には床面に点検用のフタがありましたが、これも40N工事時に埋められました。現在はご覧の通り跡形もないですが、このフタを埋めたことで保守上面倒にならないのかは気になるところです。全国的に見ても、点検フタごと埋めてしまう事例はかなり珍しい気がします。

座席両端の肘掛け(左/上)と、座席下のカバー(右/下)。

車内に入ると全く103系らしさを感じない103系3500番台ですが、この座席下のカバーだけはなぜかそのまま残っています。「103系らしさが感じられる数少ないポイント」と言っても、決して過言ではなさそうです。

非常用呼び出しボタン(左/上)と、貫通扉の固定用金具(右/下)。

非常用呼び出しボタンは40N工事時に、色を塗り替えただけでそのまま引き継がれました。これも「103系らしさ」を感じる数少ないポイントの一つで、ここだけ物凄く浮いています(笑)。

貫通扉は、いずれもこの金具で開放状態で固定されていました。こちらのほうが、車内を見渡すことの多いワンマン運転上都合が良いものと思われます。

運転台後ろ

運転台直後の様子(左/上)と、運転台側の非常用呼び出しボタン(右/下)。

運転台後ろはワンマン機器を設置した関係(と「中間車から先頭車に改造された車両」と仕様を統一する都合もあると思われますが)とで丸ごと交換されており、改造前の雰囲気は全くありません。

ちなみにこの区画の非常用呼び出しボタンは、現代のJR西日本の車両に搭載されるものとほぼ同一仕様となっています。上で紹介した昔ながらのそれとぜひ見比べてみてください(笑)。

ドア

乗降用ドア(左/上)と、ドア上のアップ(右/下)。

ドア上の路線図は、播但線沿線にある高校の美術部が作成したものだそうです。姫路駅のところには姫路城、福崎駅にはカッパ(民俗学者の柳田國男氏が生まれた町による)など、その駅にちなむものがあしらわれていました。

トイレ

トイレ内部の全景(左/上)と、トイレ内の設備など(右/下)。

設置されたのが2005~2007年ということもあり、便器は洋式洗浄は非接触式およそ国鉄型車両(103系)らしくないトイレです(笑)。ただ洗浄方式は昨今の主流といえる真空式ではなく、昔ながらの循環式でした。

おまけ

おまけとして寺前駅でのカットを紹介。

和田山方面から来たキハ40系列との並びと、深夜のホームにたたずむ103系3500番台。ブロワー音が駅構内に響き渡ると、まもなく出発です。

概説

デビュー年:1998年(103系3500番台のデビュー)

播但線 姫路~寺前の電化に伴って1998年にデビュー。

改造に伴ってワンマン化・体質改善工事が施行。103系列としては初の2両編成で、2両とも制御電動車のクモハ103 – クモハ102でユニットを組んでいる。なおJR東日本にも同じ3500番台が存在(八高線)したが、車両形式が異なるため車番の重複はない。

2024年現在、JR西日本管内で定期運用がある数少ない103系である。

タイトルとURLをコピーしました