103系「和田岬線」

103系「和田岬線」

山陽本線の兵庫駅から分岐して和田岬までを結んでいるのが、この「和田岬線」です。ダイヤは和田岬駅の至近にある工場への通勤輸送に特化しており、平日は朝夕のみ、土日は2往復のみとなっています。

そんな同線ですが、すでに全国唯一となったスカイブルーの103系が最後の活躍をしていました。全車両が“40年選手”以上の和田岬線専属の6両編成1本が日々孤軍奮闘してきましたが、そんな“老兵”も寄る年派には抗えず、2023年3月限りで勇退しました。引退後は全車が廃車となる見込みだそうです。

さて、写真は夕方の兵庫駅にて発車待ちの103系。全車に延命N40工事が施されており、戸袋窓こそ撤去されていますが、車内に足を踏み入れると昔懐かしい国鉄メークの通勤型車両の風情がそこにありました。さっそく車内に入ります。

モケット

(左)一般席 (中)床材 (右)カーテン

撮影日時・場所

撮影日:2019年8月26日

撮影場所:和田岬線 兵庫駅 車内

備考

特にありません。

車内全景

では車内へ。車内は床材・化粧板が交換されているほか、座席のモケットが青系のものになっています。またJR西日本の103系の特徴として、体質改善工事時に戸袋窓が撤去されており、車内外とも跡形が分からないほどに埋められています。このように、オリジナルからだいぶ姿が変わっているのは否めません。
しかしその一方で、座席両端と荷物棚を結ぶストレートな金属棒、塗装された荷物棚の金属枠など、昔ながらの雰囲気が随所に垣間見え、そこが面白いところです。

また、車内設備とはあまり関係がありませんが、和田岬線用の103系は車内の広告類が一切ありません。兵庫~和田岬は乗車時間が3分程度しかなく、また和田岬線以外では運用されないので、広告を出したところでその効果は…ということなのでしょうか。派手な広告が一切ない、「プレーン」な車内を満喫できるのは、趣味的には嬉しいです(笑)。

座席 – ロングシート

ドア間の7人がけ席(左/上)と座面のアップ(右/下)。着席区分のようなものは一切なく、座面はあくまでフラットです。

座席モケットは濃紺のものに交換されており、波うちやしわなどもなく比較的良好な状態に感じられました。もっとも、座席内部の詰め物やスプリングは特に交換されていないようで、座ると「バフッ」と音を立てて腰が沈み込む、国鉄型車両によくある座り心地はそのままです。

座席を横から見た様子(左/上)と座席下のカバーのアップ(右/下)。非常用のドアコック(個別開放:コック最寄りのドアのみ手で開く)は座席下に設けられています。

座席 – 車端部ロングシート

車端部の様子。3人がけのロングシートが配されています。車両によって、妻面(連結面)の窓が残っているものと撤去されているものがあったのでこちらで一挙に紹介します。

貫通扉(車両間のドア)は固定されており、閉めることができなくなっていました。兵庫駅、和田岬駅ともに改札が片方向にしかなく、終点が近くなると乗客が車内を歩いて改札側へ移動すること、回送前の車内点検の便を考えるとこちらの方が理にかなっているのかもしれません。

車端部ロングシートの様子(左/上)と連結面側の機器室(右/下)。連結面の機器室上はちょっとしたテーブル状になっており、スマホや飲み物程度なら置けるようになっています。これも国鉄型の通勤型車両によく見られる構造です。

優先席 – 車端部

続いて兵庫側の車端部に配置されている優先席を見ていきます。座席モケットこそJR西日本の標準仕様に張り替えられていますが、座席内部のスプリングはこちらも交換されていないようで、真新しいモケットにヘタった座り心地というちぐはぐを体験できます(笑)。

兵庫川の先頭車直後にある7人がけ席は、なぜか7人がけ全体が優先席になっています。全車両の決まった側に優先席を配置する必要からこのようになったと思われますが、それにしてもこの目につく優先席のモケットがドア間まるごとというのは、写真で見る以上に圧巻です。乗車した時はぜひ見てみてください。

ちなみにJR東日本では、同じような場合は「7人がけのうち3人がけ」のみ優先席など、座席の途中でモケットが変わるようになっています。このあたりは会社間の考え方の違いでしょうか。

各種車内設備:天井まわり

以降は各種の車内設備をご紹介。まずは天井の全景(左/上)と荷物棚の様子(右/下)。冷房化改造されていますが、扇風機も現役で稼働していました。

棚の両端のポールは白く塗装されていますが、これはデビュー当時からの仕様です。103系そのものが数を減らしていく中、細々と残る103系も何らかの車内更新工事を受けており、この「塗装された金属」は(博物館を除けば)絶滅危惧種に近い存在と言っても過言ではなく、非常に貴重な存在でした。

スピーカー(左/上)の様子。国鉄型の通勤型・近郊型の車内では必ず見られた「箱型スピーカー」です。独特のこもった音で、特に高速走行中はモーター音にかき消されて放送がほとんど聞き取れないシロモノでした。

右はドア上のダウンライト(右/下)。こちらは国鉄型車両(201系より前)では、特急・急行のデッキ、通勤型車両のドア下に必ずついていました。内部に電球が埋め込まれており、ぼんやりとドア部分が照らされます。私が物心ついた時には、通勤型車両では既に「常時消灯」されていましたが、どのような趣旨で設置されていたのか、何よりこのライトの“正式名称”が何なのかは気になるところです。ご存知の方、いらっしゃいましたらぜひご教示ください。

各種車内設備:その他

通路(左/上)とつり革(右/下)の様子。床材は一見きれいに見えますが、よく見ると随所に補修された跡が見受けられます。

「座席 – 車端部」の項で紹介しましたが、貫通扉は見ての通り固定されており、閉めることができなくなっていました(左/上)。また(右/下)は取材中にたまたま見つけた天井の補修後の様子。見ての通り、シートとガムテープで雑に養生されていますが、これは何を補修したものなのでしょう?エアコンからの水漏れとも思えませんし、天井の化粧板が破損したのでしょうか…。

非常用設備

非常用ドアコック(一斉:その車両全てのドアが手で開く)の様子(左/上)と非常用呼出ボタンの様子(右/下)。今風のピクトグラムが貼られていますが、機器本体はデビュー当時からのものと思われます。レトロなプレートと、真新しいピクトグラムシールが仲良く並んでいる、この何とも言えない違和感が面白いところですねぇ。

ドアと連結部分

ドア(左/上)の様子と、連結部分のステップ(右/下)。ドアはデビュー当時からこんな感じと思われますが、錆びやゴムの劣化もなくきれいな状態を保っています。対照的に、錆びが目立っているのが連結面のステップ。和田岬線用の103系、現代まで残っているわりに車内は存外きれいなのですが、こういうところはやはり老朽化とともに、この車両の長い歴史を感じずにはいられませんでした。

おまけ

最後におまけとして、運転台の様子(左/上)。薄いグリーンの化粧板にレトロな計器類が並んでいます。(右/下)は乗車した様子の動画を1分半程度にまとめた映像。写真では伝わりきらない103系の風情や、走行音の迫力あるモーター音をお楽しみください。

車両概説

デビュー年:1963年(車両)

1963年に登場した101系改良形の通勤電車。定格速度を低く抑えて加減速を飛躍的に向上させている。約3100両が製造され、JR化後も使用され続けてきたが後継車に置き換わりつつある。

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