【2/17新設】キハ40形1700番台「道南いさりび鉄道」

キハ40形1700番台「道南いさりび鉄道」

五稜郭~木古内の道南地域を結ぶ「道南いさりび鉄道」。かつてはJR北海道の江差線で、北海道新幹線の開業に伴って第三セクターに移管された区間です。移管後もJR時代から引き続いてキハ40形1700番台が運用されており、JR江差線時代の雰囲気がまだ色濃く残っているのが特徴です。

道南いさりび鉄道の面白いところは、車体の塗色が実に多彩なこと。同社はキハ40形1700番台9両を保有していますが、同一の塗色が複数存在するのは濃赤色とイベント用のながまれ号のそれぞれ2両(→「後述)だけ。その他は1両おきに塗装が異なり、どの色に乗ったという“楽しみ”があるのが特筆されるところです。

一方で車内はいずれもほぼJR北海道時代のままで「1両おきに異なる」ような面白みはないものの(笑)、昔ながらの「国鉄の風情」が令和の今でも残っていました。さっそく見ていきましょう。

【備考:「道南いさりび鉄道」の塗色事情】

道南いさりび鉄道には、山吹色(1812)濃緑色(1810)濃赤色(1796・1814:左/上)白色(1815)ながまれ号(1793・1799:後述)国鉄首都圏色(1807:右/下)国鉄急行色(1798)の計7種類の塗色が存在します。

モケット

(左)座席 (右)カーテン

撮影日時・場所

撮影日時:2023年5月

場所:道南いさりび鉄道線 函館駅 茂辺地駅ほか

備考

・キハ40形・47形・48形を総称して「キハ40」と呼ぶ場合がありますが、道南いさりび鉄道に承継されている車両がいずれもキハ40形であることから、当サイトでは「キハ40」の表記に統一します。

普通車 車内

車内の様子。

キハ40形1700番台は元々極寒地向けに改造されたキハ40形100番台が出自なので、車内はデッキ付き・開閉式の窓は全て二重窓など、寒冷地での運用に振り切った仕様になっているのが特徴です(→「備考」も参照)

パッと見は「JR北海道でよく見かけるキハ40形の車内」そのもので、道南いさりび鉄道への移籍にあたって改造された点は特段見当たりません。

【備考:キハ40形1700番台の生い立ち】

そもそもキハ40形1700番台は、1979~1980年にキハ40形100番台として登場した車両を改造したグループです。あとに100番台の大半はワンマン化改造(1993年5月から1995年2月(※)にかけて施行)を受け、キハ40形700番台になりました。

その後、JR北海道が引き継いだ700番台の一部にエンジンや変速機の交換などの延命工事(2004年8月から2011年11月(※)にかけて施行)を施したのが、現在まで残るキハ40形1700番台です。

キハ40形100番台から同700番台への改造時は、キハ40 101~116(※)を除いて改造の施行順に車番が振り直されました。また、キハ40形700番台から同1700番台への改造時は、元の車番に1000が加えられています。

従って、1700番台は必ずしも車番が若いほど古い車両とは限りません。

参考までに、道南いさりび鉄道に在籍する車両の中で最も古いのはキハ40 1807(元キハ40 131:1979年10月製造)、逆に最も新しいのはキハ40 181018121793(元キハ40 219・221・231:1981年4月製造)です。

(※)改造・延命工事の施工日はいずれも道南いさりび鉄道に在籍している車両のみで算出しています。実際の100→700番台化工事は1990~1995年、700→1700番台化工事は2003~2012年まで行われていました。また、キハ40 101~116が出自の車両は道南いさりび鉄道には在籍していません。

クロスシート

クロスシートの全景(左/上)と座席のアップ(右/下)。

キハ40形は国鉄型車両としては比較的“後期”に製造されたため、様々なサービスアップが導入されていたりします。クロスシートには、国鉄型車両では初の「人間工学」を取り入れているほか、シートピッチも急行型のキハ58系と同一の1,470mmを採用(→「備考」も参照)するなど、細かいサービスアップが図られているのが特徴です。

実際に着座してみると座席のランバー部分(腰から背中の下)の角度が絶妙で、奥まで深く腰掛けた時の座り心地は存外快適でした。国鉄型車両のクロスシートとしては、一つの“集大成”であったと言っても過言ではなさそうです。

【備考:国鉄型クロスシートのシートピッチ事情】

戦後に製造された国鉄型車両は、1970年代まで近郊型車両は1,420mm急行型車両では1,470mm(※)がいわば“定番”でした。従って、ローカル線向けに開発されたキハ40形のシートピッチが急行型と同一の1,470mmというのは、当時としては画期的だったようです。

もっとも1977年以降に製造された近郊型車両(113系2000番台、115系1000番台、415系100番台など)からはシートピッチは急行型より広い1,490mmに拡大され、キハ40形の“優位性”は薄れました。

(※)急行用の12系客車に限り、通常20mの車体を21.3mまで延長してシートピッチを1,580mmまで拡大していました。

車端部 片面クロスシート

ロングシートとクロスシートの境目には、スペースの関係で2人掛けの片面クロスシートとなっている区画が存在します。(左/上)が全景、(右/下)が座席のアップ。

キハ40形では「知る人ぞ知る穴場席」のようですが、こちらに腰かけた時の視覚上の圧迫感と窓の小ささは如何ともしたがいところです。

ドア脇 ロングシート

デッキ寄りはロングシートとなっています。比較用に、トイレのない区画(左/上)とある区画(右/下)をそれぞれ紹介します。

なおトイレの扉はデッキ側にあり、客室側から出入りすることはできません(後述)

ロングシート部分の様子。一般席(左/上)と、優先席がある区画(右/下)です。

優先席のモケットはJR北海道時代から引き続いて、パープル色のものが採用されています。

座面のアップ(左/上)と、つり革のアップ(右/下)。

ロングシート部分には優先席も設けられていますが、最近“流行り”の「黄色いつり革」ではなく、全てがこの白い丸型つり革に統一されています(→「備考」も参照)

【備考:JR北海道の黄色いつり革事情】

JR北海道において、優先席付近の黄色いつり革(公式サイトでは「オレンジ色」との表記あり)は札幌圏を走る列車にのみ導入されています。

道南いさりび鉄道に移籍した車両はJR北海道時代の最終配置がいずれも函館でした。従って、(推測ですが)移籍前からこの「ノーマルつり革のみ」の仕様だったものと思われます。

車内設備

天井(左/上)と網棚(右/下)のアップ。

天井は通風用のベンチレーターと送風ファン口だけで、えらくスッキリ。それもそのはずで北海道のキハ40形には冷房がありません。道南いさりび鉄道に移籍後もそのままで、夏場は送風ファン(→「備考」も参照)に頼るか窓を開けるかしてしのぐことになります。

私の取材時は春先でしたが、夏場は蒸し風呂状態になることも決して少なくないとのこと。昔は良かったのかもしれませんが、猛暑が続く昨今「非冷房車」というのはそろそろ無理がある気がします。

【備考:JR北海道キハ40形の扇風機事情】

この送風ファンはキハ40形1700番台で見られる扇風機の代替設備で、正式名称は「クールファン」です。キハ40形1700番台化の際に、昔ながらの丸型扇風機を撤去した代わりとして設置されたものでした。

「クール」と言えども内部でシロッコファン(※細長い板状の羽根がついた円筒形のアレ)が回っているだけで、実質「扇風機の形が変わったようなもの」です。特に夏場はクールとはおよそ程遠いシロモノでした。

余談ですが、キハ40形のほかキハ141系などにも改造によりクールファンが取り付けられた車両が存在します。

窓間のコートかけ・扇風機スイッチ(左/上)と、携帯電話のマナーシール(右/下)。

一瞬「扇風機がないのに扇風機スイッチ…?」となりますが、これは先述のクールファンのスイッチです。扇風機があった頃からのスイッチをそのまま使っているのでしょう。

通路(左/上)と座席肩部の握り手(右/下)。

床材は昔ながらのリノリウムですが、キハ40形1700番台への改造時に全面的に張り替えられたためか現在もきれいな状態を保っていました。

窓枠部分(左/上)と、車窓案内の表記(右/下)。

窓枠部分は一見テーブル然とした形状になっているものの、冬季に使用する二重窓のスペースを確保するための「単なる大きめの窓枠」です。二重窓が使用されない夏場であれば、飲み物くらいなら置けそうですが…あくまで「テーブルではない」ので利用は自己責任で、と言ったところでしょうか。

座席番号表記のアップ(左/上)と、車内の防犯カメラの様子(右/下)。

この防犯カメラ、現在JR北海道に残るキハ40形にも全く同じものが設置されていたりします。恐らくJR北海道時代のそれを、道南いさりび鉄道でも引き続き使用しているのでしょう。

デッキ

デッキの全景(左/上)と運賃箱のアップ(右/下)。

(参考)「ながまれ」号 キハ40 1793・1799

運良く乗車できたながまれ号の車内をちょっとだけご紹介。このながまれ号イベント列車・観光列車用という位置づけの車両で2両が存在し、車番はキハ40 1793・1799です。

車両改造費が非常に安いことや沿線の演出から「日本一貧乏な観光列車」とも呼ばれるらしいながまれ号ですが、普段は他の車両とともに普通列車で運用されています。当ページでは、普通列車として運用中の様子を見てみましょう。

ながまれ号のクロスシート(左/上)。

窓下に何やら金属製の金具が追加されていますが(右/下)、こちらは観光列車「ながまれ海峡号」など、車内で飲食の提供が行われる際に取り付けるテーブルを固定するためのものです。

その他、「ながまれ海峡号」としての運行時は各座席にヘッドレストを取り付けるようですが、上から被せるだけの着脱式なので座席側は特に改造されていません。従って、改造点は窓下の金具だけということになります(笑)。

窓間の「We love, いさりび!」のステッカー(左/上)と、ながまれ号車内で撮影した非常呼び出しボタンなどの様子(右/下)。

「We love, いさりび!」のステッカーには、沿線の住民や団体からの歓迎メッセージが書かれていました。こういった演出は地方ローカル線らしいと感じます。

トイレ

最後にトイレの様子を。デッキ側のトイレ入口(左/上)と内部の様子(右/下)です。

鉄道車両のトイレの扉は引き戸が主流ですが、キハ40形では珍しく内開きの扉が採用されているのが特徴です。

概説

デビュー年:1977年(車両)

1950年代に製造されたキハ10系を初めとする通勤用気動車の後継として1977年にデビュー。1982年までに888両が製造され、日本全国の非電化区間で主に普通列車として用いられた。

1700番台は、キハ40形700番台(ワンマン化改造済)に機関換装などの延命工事を施行したもの。2003年から2013年まで84両に施行された。このうち1793、1796、1798~1799、1807、1810、1812、1814~1815の9両が道南いさりび鉄道に譲渡され、2024年現在まで使用されている。

1793・1799は、イベント列車や観光団体列車「ながまれ」号。ボックス席に着脱式のテーブルを取り付けられる改造が施されているが、通常は一般車と混用されている。

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