【非鉄】東京でUberの「自家用タクシー」に乗ってみた

東京でUberの「自家用タクシー」に乗ってみた

「日本版ライドシェア」が2024年4月に始まって、早半年が経った。海外ではごく一般的になりつつあるライドシェアだが、日本ではまだ都心の一部地域のみ、しかも時間限定での部分的解禁にとどまっているのが現状である。

システムも複雑で「ドライバーはタクシー会社に登録」「運行中はタクシー会社の管理」と、海外とは一線を画す内容だ。

さて、私は2024年9月に都内で「日本版ライドシェア」に乗車する機会があった。当記事では、その時の様子を紹介していく。

なお「日本版ライドシェアとは?」というような、“そもそもの話”は割愛する。一応、>>NHKのニュース記事へのリンクを貼っておくが、詳細はご自身でググるなりしていただきたい。

さっそく配車してみよう

「乗車した際の状況を紹介」と書いたが、まずは配車せねばならない。Uberアプリを開き、乗車場所と降車場所を入力すると以下のような画面が表示される。

日本版ライドシェアの運用時間帯は、通常の「タクシー」「プレミアム」などに加えて「自家用タクシー」が選択できるようになっている。今回選ぶのは、当然「自家用タクシー」だ。

乗車区間は有明ガーデン(東京都江東区)JR新橋駅(同 港区)で、走行距離は約4.1km。私はこのエリアに一定の土地勘があり、(結果としてその心配はなかったが)変なルートを行かれるなどした時にすぐ分かるためだ。

【備考:自家用タクシーと日本版ライドシェア】

当ページでは以後、自家用タクシーを「uberアプリ上での商品名」、日本版ライドシェアを「日本版ライドシェア全般」の意味で用いる。

ただ、当ページをお読みになる場合に限っては、両者は同じものと解釈していただいても差し支えはない。

配車成立~乗車まで

「自家用タクシー」を選択すると、アプリが近隣を走るドライバーとの“マッチング”を行う。今回は選択からほどなくして、一台の自家用タクシーが私の配車依頼を引き受けてくれた。

マッチングが成功すると、ドライバーの顔写真・車の外観・ナンバー・車種などが私のスマホ上に表示される(↓)。

…と、ここまでの流れはUberアプリで法人タクシーを配車するのと全く同じだ。だが、よく見るとナンバープレートのひらがなは「さ」である。

法人タクシーを含む事業用普通自動車がナンバーで使えるひらがなは、「あ」~「こ」・「を」のみ。それが「さ」ということは、間違いなく白ナンバーの「自家用タクシー」が来るというわけだ。

大人気ない自覚はあるが、ちょっとだけワクワクしながら到着を待つ。

無事に到着~乗車

10分ほどしたところで、明るい色のスズキ製・小型ハイトールワゴンが私の前でとまった。

一瞬びっくりしたが、ナンバーを見るとUberアプリに表示されているのと同じ番号。どうやらこれが、これから私が乗る「自家用タクシー」らしい。助手席上のところに「Go ライドシェア」のプレートも出ているので、間違いなさそうだ。

「ライドシェア」に用いられるクルマには、このようなプレートが掲出されている。(※許可を得て撮影)

ドライバー氏に予約名を名乗って乗りこむ。車内はとってもきれいで、まずは一安心。

運転席で出迎えてくれたのは、推定30代後半の男性。身なりは小綺麗で清潔感もあるが、服装はいわゆる“私服”だ。あくまで「自家用車」なのを実感する。

運転席まわりを見ると、タクシーではお決まりの運転者証(助手席前についている運転士の資格者証が入ったやつ)やメーターはない。まるで、知り合いにクルマで送ってもらっているような気分だ。こういうところは、やはり「自家用車」である。

しかし、自家用車なら運転者の‟私物”が多少なりとも置いてありそうなものだが、車内にはそうした類のものが一切ない。ドライバー氏に聞いたところ、

これは自分のクルマではなく、タクシー会社が所有しているクルマ。ライドシェアのドライバー何人かで共用している」(意訳)

とのことだった。

「一般ドライバーが自家用車を活用して、客を有償で運ぶサービス」を謳う日本版ライドシェアの趣旨からはややズレている気がしなくもないが、タクシー会社がクルマを用意する方がサービス水準を均一にしやすい・ドライバーの間口が広がるなどのメリットがあるのかもしれない。

豊洲大橋を快走する「自家用タクシー」の車内から。

出発してみるとドライバー氏の運転はとても丁寧で、不安は全く感じない。スピードが乗るところでは等速で走行し、とまる間際のブレーキングも繊細。いわゆる‟カックンブレーキ”とは無縁である。

ドライバー氏に「本業も運転系なのですか」とうかがったところ、ふだんは全く違うお仕事をされているとのこと。2種免許を持っているわけでもないそうだ。

もともと運転がお上手なのだろうとは思うが、ライドシェアの議論でよくやり玉にあがると聞く‟質の担保”は、(私が乗車したドライバー氏に限っては)十分実現できていそうに見えた。

新橋に到着

私を乗せた「自家用タクシー」は、環状2号線本線トンネルを経由して汐留に入った。ここまで来れば、目的地のJR新橋駅まではあと少しである。

2022年4月に開通したばかりの、環状2号線・築地虎ノ門トンネルを行く。

乗車から15分ほどで、「自家用タクシー」は無事に新橋駅に到着した。

(事前に許可を得ての上)Go ライドシェア」のプレートを撮影させてもらってから、いろいろと私の無駄話につきあってくださったドライバー氏にお礼を言って下車。「自家用タクシー」は新しい予約が入ったのか、私を降ろすとそそくさと都内の街に消えていった。

で、実際どうだったのか

今回はじめて「自家用タクシー」を利用したわけだが、私が乗ったクルマに限っては十分「アリ」だった。ただ、この評価は私を乗せてくれたドライバー氏の運転・接客が非常に良かったからというのが大きい。

法人タクシーの運転手が全員すばらしいわけではないのと同じで、運転手によっては評価が真逆になり得たというのは付記しておくべきだろう。

次項以降では、「運賃」「利用者数」「利用者側のメリット」の3つの視点から「日本版ライドシェア」を見ていく。

運賃を過大請求される心配はない

SNS等でたまに見かけるのが、海外のライドシェアやタクシーで大回りなルートをぐるぐる走られ、過大な運賃を請求されたという話である。

結論から言うと、日本版ライドシェアではその心配はなさそうだ。uberアプリ上、「自家用タクシー」の項には固定の運賃が表示され、「○○○○〜○○○○円」というような運賃の“幅”がない。

したがって、(故意か否かに関わらず)たとえ大回りされたところで運賃は一定だ。

「自家用タクシー」を含めた日本版ライドシェアのドライバーは、法人タクシーのような厳格な地理テストに合格しなくてもなれる。それだけに「変なルートを行かれて運賃が高くつかないか」というのは個人的に不安だったのだが、これについては心配ないとみて良いだろう。

私が乗車した際の走行ルート。見事に最短ルートをおさえている。

余談だが、Uberのドライバー向けアプリには、到着地までの道順がカーナビの如く表示されている。ドライバーは、基本的にそれに従って運転すればよい。

なお、私が乗車した際のドライバー氏は「Uberの運転者向けアプリ」に加えて「車載のカーナビ」も併用されていた。どちらかが使えなくなっても、もう片方で運転を継続できる‟ゆとり”があるのは利用者としても安心感がある。

日本版ライドシェア、都内での浸透は

今回の乗車前、私は日本版ライドシェアの乗車体験紀を調べている。しかしそれらしきレポートは皆無で、SNS上まで調査範囲を広げても同様だった。

それゆえに日本版ライドシェアの浸透具合は気になっていたが、私が乗車した「自家用タクシー」のドライバー氏によれば「少ない日で3件、多い日で8~9件ほど」の客を乗せているという。

もちろん天候などによっても左右されるのだろうが、私の率直な感想は「思った以上に利用者がいるんだな」であった。現状の日本版ライドシェアは、「知る人ぞ知る」乗り物なのかもしれない(→「備考」も参照)

【備考:日本版ライドシェアの営業区域事情】

日本版ライドシェアの営業区域は、ライドシェアのドライバーが所属するタクシー会社に準ずる。私が乗った自家用タクシーの場合は営業区域は23区で、「23区内の発着、または23区発で営業できる」ということだ。

ただ、この「23区発」というのがミソで、ドライバー氏によると「外国人旅行者の配車依頼を取ったら、行先が県をいくつも超えた山奥だった」こともあるという。都内に回送で帰ってきた時は、夕方を過ぎていたそうだ。

ライドシェアドライバーの求人広告では「すき間時間に働ける」という謳い文句をよく見かけるが、そう一筋縄ではいかないのかもしれない。

乗客側に「日本版ライドシェア」のメリットはあるか

私が利用した際は、uberが「自家用タクシー毎回のご乗車30%OFF」なるプロモーションを提供しており、運賃が755円割引となった(※その他、私が加入している「Uber One」の割引が132円)

ただしプロモーションを利用しない場合は、法人タクシーとほぼ同じ価格帯となる。

2種免許&厳しい地理テストをパスした運転手が運転する法人タクシーと、1種免許でも可&地理テスト不要な自家用タクシー。これらが大差ない価格なのを是とするかは、意見が分かれそうだ。

ちなみに、日本版ライドシェアは「地域交通の担い手・移動の足不足解消」を導入の目的として謳っている。しかし、こと都内(特に23区内)に限っては基本的に法人タクシーも見つかりやすいのだ。

uberやgoなどのアプリ提供側、あるいは自治体が(安さ以外で)自家用タクシーのメリットをどう位置付け、訴求していくかは、今後の「日本版ライドシェア」の成否を大きく方向づけるかもしれない。

終わりに

日本独自のスタイルを取り入れた「日本版ライドシェア」。私が利用した自家用タクシーのサービス水準は高く、ライドシェアが新たな交通手段として定着する可能性をも期待できるものだった。

法人タクシーとの差別化など粗削りな面も見受けられたが、まだ始まったばかりのサービスである。

「日本版ライドシェア」が根付いていくか、もっと言えば独自の発展を遂げられるか、あるいは単なる“法人タクシーの下位互換”にとどまるか。今後も実見しつつ見守っていきたい。

念のため

本記事の趣旨は、あくまで「自家用タクシーに乗った際の様子を紹介する」のが趣旨である。自家用タクシーを始めとした日本版ライドシェアの利用を推奨・非推奨とするものではなく、またuberアプリの宣伝を行うものではない。

なお、私自身は日本版ライドシェアにはわりと肯定的な立場だ。「法人タクシーより安い」などのメリットがあれば、今後も(自家用タクシーを含めた)日本版ライドシェアは選択肢になりうるというのが正直な感想である。

写真撮影はドライバーの方から許諾を得た上で行ったほか、撮影にあたっては「車体と自分の姿は映さないでほしい(※意訳)とのことだったのでそれに従った。当サイトの記事にしては写真が少ないが、このような事情がある旨をご理解いただきたい。

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