381系「ゆったりやくも」 グリーン車/普通車
夜の松江駅を発車していく381系(左)と、「ゆったりやくも」のロゴ(右)。
ロゴには、「ゆったりやくも」をPRするゆるキャラがあしらわれていました(→「備考」も参照)。
【備考:「ゆったりやくも」のゆるキャラ事情】
このゆるキャラは、JR西日本米子支社がプロデュースした「ゆったりやくも」のイメージキャラクターももちゃん(ピンク)とやっくん(緑)です。
やっくんは「やくも」、ももちゃんは岡山の名産である桃が由来だそうで、沿線のお祭りなどに着ぐるみが出向いて「ゆったりやくも」のPRを行うとのこと。かつて全国的に「ご当地ゆるキャラ」があちこちで雨後の筍のごとく大量に登場した時期があり、当時の“流行”に乗った施策だったのかもしれません。
なお後継の273系では今のところ目撃情報がなく、381系引退後の二人の“去就”は今のところ不明です。ご存知の方がいらっしゃいましたら是非ご教示ください。
車両番号の表記(左)と、先頭部の「JR WEST JAPAN」ロゴの様子(右)。
「ゆったりやくも」への改造に伴い、車両番号の表記はプレート化されたのが特徴です。JR西日本の現代の車両(223系や683系など)は車両番号をプレート上に表記している例が多く、同車もそれに則ったものと思われます。
モケット
(左)座席 (中)カーテン (右)床
撮影日時・場所
撮影日時:2022年10月、2024年2月
場所:松江駅・出雲市駅ほか
備考
・当ページでは、「ゆったりやくも」の名を“2007年以降に改修工事が行われた特急「やくも」用編成の通称”として用います。「ゆったりやくも」は列車名ではない旨、ご注意ください。
普通車 車内
普通車の全景。
「ゆったりやくも」への改造を経て、普通車も抜本的なリニューアルが行われました。座席はもちろん荷物棚・空調・照明・床面まで全て交換されており、改造前の面影は全くないと言っても過言ではありません。
【備考:厳密には2パターンある普通席】
「ゆったりやくも」の普通席は、もともと普通車だった車両と、グリーン車からの格下げ改造車(4両編成の2号車)が存在します。
窓周りや空調ダクトの構造に差異がありますが、どちらもほぼ共通の内装です。相違点は後ほど当項で改めて紹介します。
車内を反対から見た様子(左/上)と、天井のアップ(右/下)。
天井は>>グリーン車と同一の構造ですが、ダウンライトは白色系です。また、座席部分は一段高くなったハイデッキ構造に改造されました。
普通車 座席
座席の全景(左/上)と車端部区画(右/下)。
座席のフレームは683系などとほぼ同等ですが、特に背もたれ部分は外側が大きく張り出す「ゆったりやくも」オリジナルの形状です。
背もたれの中央が(大げさに言えば)フラットになっており、モケットも滑りにくい素材を採用。このため着座した時の身体のホールド性は非常に高く、普通車としては十分すぎる居住性だと感じました。もっとも、走り出したらものすごく揺れるのですが…(苦笑)。
またしても車端部区画ですが、こちらはグリーン車にもある「スペーサー付き」の区画。各車両の岡山寄り最前列がこの座席になります(番号は16、17、14など車両により異なる)。
このスペーサーは、381系のシートピッチが(381系本来の仕様である)910mmから1,000mmに拡大された1994年以降に設置されたもの。「ゆったりやくも」化後も、化粧板の張り替え・網ポケットの増設・一枚板テーブルの撤去が行われて残存しました。
ダクト脇 1人がけ席
381系は空調ダクトが車内壁面を通る箇所(→のちほど詳説)がありますが、その脇の区画は見ての通り1人がけ席となっています。
写真がその全景(左/上)とダクト部分の様子(右/下)。車両によりダクトが2本・1人掛け席が2列(グリーン車からの格下げ改造車)と、ダクト1本・1人掛け席が1列の車両があります。
1人がけ席の全景(左/上)と、全展開状態(右/下)。
かつてはこのダクト部分に一枚板の小さいテーブルがありましたが、「ゆったりやくも」への改造時に撤去されています(→「備考」も参照)。
【備考:「ゆったりやくも」1人がけ席の座席番号は?】
「ゆったりやくも」の“基本編成”とも言える4両編成の場合、2号車(グリーン車からの格下げ改造車)の10・12番、3・4号車の6番が1人がけ席です。「通路側」扱いでB・C席となる点に注意してください。
繁忙期に6・7・9両まで増結される場合はこの法則が崩れ、一人がけ席の位置は6・7・9号車など先頭または最後尾の普通車が11番、それ以外は6番が“基本”となります。ただ「ゆったりやくも」は編成替えが柔軟に行われており、いつも“基本”通りとは必ずしも限らないのもまた事実です。
結局、指定席券売機やネット予約時に表示されるシートマップを見るのが一番確実なのは間違いありません。
形式別にみるとモハ381/380・クモハ381の6番、サハ381の10・12番、クハ381の11番が1人がけ席です。従って1人がけ席の席番をざっくりまとめると、以下のようになります。
(マトリクスはクリック・タップで拡大)
…やはりシートマップを見ながらの予約が簡単で便利そうです。
普通車 座席周りの設備
座席を正面から見た様子(左/上)と、座席の肘掛け部分のアップ(右/下)。
肘掛け周りは683系などでもよく見られるデザインですが、座面・背もたれは完全に新設計に近いものと思われます。見ての通り非常にソリッドな作りで、揺れの多い振り子式車両ゆえの仕様でしょうか。
肘掛け部分のテーブル(左/上)と背面テーブル(右/下)の様子。
背面テーブルにはドリンク置き場とは別に、車内販売のカップ用と思われる穴が開いています。鉄道での導入は珍しく、「ゆったりやくも」の揺れの多さが垣間見える設備と言えるでしょう。
その他の車内設備
デッキと客室の仕切り扉(左/上)とSOSボタンなど(右/下)。
ドア上には号車と座席種別を表示するLED表示板が設置されています。表示はこれだけで、次駅表示などはありません。
通路(左/上)と荷物棚のアップ(右/下)。
「ゆったりやくも」への改造に伴い、座席部分を通路より一段上げたハイデッキ構造が採用されています(先述)。なお「ゆったりやくも」でハイデッキ構造が採用された経緯は、以下に長々としたためました。興味のある方は読んでみてください。
【備考:「いま、ハイデッキ化する」】
1980~1990年代、座席部分を通路より一段高くしたハイデッキ車両があちこちで導入されたことがあります。車窓からの眺望向上を狙ったものでしたが、反面車内に段差ができるデメリットがあり近年ではバリアフリー化の流れでほぼ“絶滅危惧種”となりました。
そんな中、「ゆったりやくも」では久々にハイデッキ構造が採用されました。確かに伯備線や山陰本線の眺望はとても良いですが、この採用は車窓からの風景が目的ではありません。「空調ダクトを隠す」という、381系固有の問題を解決するためです。
そもそも381系が取り入れた自然振り子式は、その性質上車体の重心を下げる必要があります。そのため重い空調機器は床下に配置し、冷気・暖気を(吹出口がある)天井まで運ぶためのダクトを車内に通したのですが、これが窓際席の足元スペースを侵食していました。
「ゆったりやくも」化改造ではこの窓際の圧迫感を解消するため、床をかさ上げ(=ハイデッキ化)してダクトを隠すという大掛かりな工事を行っています。結果として窓際席の居住性は大幅に向上。名実ともに“ゆったり”やくもになりました。
「眺望の追求ではなくダクトを隠すためのハイデッキ化」は、全国的に見ても珍しい例と言えます。ちょっとした「ゆったりやくも」の雑学として紹介してみました。
(↑参考)未改修の381系座席。足元にある銀色のカバーがダクト。
普通車の窓の違い
普通車にはもともと普通車だった車両・元グリーン車からの格下げ改造車(4両編成の2号車)の2種類がある旨は冒頭で記載しました。では、車体と窓の違いを具体的に見ていきましょう。
まずは編成の大多数を占める「もともと普通車だった車両」。こちらは特に何の変哲もない381系の側面・窓です。
で、こちらが4両編成の2号車に連結されているグリーン車からの格下げ改造車。
中央に柱を設けた2枚1組のユニット窓となっているのが外観上の大きな違いです。グリーン車時代はシートピッチ1,160mmだったところに1,000mmで座席を配しているため、ご覧のように車内の窓割りが合わない座席も散見されました。
【備考:グリーン車から普通車に生まれ変わった事情】
「やくも」「スーパーやくも」時代は、グリーン車の連結位置が1号車の編成(パノラマ車)と2号車の編成(その他)がありました。
しかし「ゆったりやくも」化にあたって、グリーン車の連結位置を全ての編成で1号車に統一することに。2号車がグリーン車の編成は、1号車を普通車→グリーン車・2号車をグリーン車→普通車へそれぞれ改造する工事が施行されました。
ここで登場したのが、この「グリーン車からの格下げ改造車」です。内装は「ゆったりやくも」化に伴って一新された一方で、車体外観はグリーン車時代の面影がよく残る“ちぐはぐ”が面白い車両でした。
デッキ
デッキ部分を2アングルから。いずれもグリーン車からの格下げ改造車で撮影しています。
貫通扉(車両と車両の間の扉)はなぜか半透明ですが、これは国鉄型車両のグリーン車でよく見られた仕様です。グリーン車時代の扉をそのまま使っているのでしょう。元から普通車の車両の場合、ここは透明な網入りガラスとなっています。
2号車の業務用室(左/上)と、デッキと客室の仕切扉をデッキ側から見た様子(右/下)。
この業務用室はグリーン車時代の車掌室です。乗務員室ではなく、あえて「業務用室」と書いてあるのはどういった理由からなのでしょうか。気になるところです。
デッキのゴミ箱2種類。
一部の車両は、ゴミ箱全体が外置きされている珍しい形状でした。
概説
デビュー年:1973年(381系のデビュー)
中央西線の電化にあわせて1973年にデビュー。曲線区間での高速走行を目指し、振り子式を採用しているのが特徴。
従来車両では曲線の通過速度が最大でも本則速度+5km/hだったが、自然振り子式の導入により381系では本則+20km/hまで可能になった。自然振り子式とは、車体にかかる遠心力を用いてコロで支持された車体を最大5度まで傾斜させる仕組み。乗客への遠心力軽減と乗り心地の向上を図っている。
ただ、この自然振り子式には「曲線で振れ始めが遅れ、急に最大限度まで振れる」という欠点があった。そのため乗り物酔いを訴える乗客が続出し、381系の投入列車名をもじって「げろしお」「はくも」などと揶揄されたという。「各座席にエチケット袋が備えられた」というエピソードが各趣味誌で紹介される場合があるが、2024年時点でエチケット袋は洗面台に設置されている。
JR西日本の「やくも」は2024年4月現在、国鉄型特急車両の最後の定期運用となった。同年3月の改正で後継となる273系への置換が開始されており、今後順次置き換えられる見通し。