381系「ゆったりやくも」グリーン車

381系「ゆったりやくも」 グリーン車/普通車

車内設備や停車駅の違いなどで「やくも」「スーパーやくも」があった2つの「やくも」を統合するとともに、内装の近代化工事を施して登場したのがこの(通称)ゆったりやくも」です。

写真は玉造温泉駅(左)と出雲市駅(右)で撮影した381系「ゆったりやくも」の様子。塗装(→「備考」も参照)はともかく車体のフォルムは昔ながらのままですが、車内に立ち入ると一見では「国鉄型」と思えないほどの改装が施されていました。さっそく見ていきましょう。

行先表示の様子(左)と、たまたま乗り合わせた国鉄特急色の復刻塗装車(右)。

行先表示は「ゆったりやくも」改造時にLED化され、行先に加えて号車表記と座席種別の表記が一体化されているのが特徴です(→「備考」も参照)

【備考:LED化されていない「ゆったりやくも」もあります】

2015年以降、紀勢本線の「くろしお」を追われた381系の一部が「やくも」の増結車に転用されました。この車両は塗色と座席を交換しただけで、行先表示は字幕式&号車・特急のサボ受けも残っています。

簡易な改造のみだったことから一部のファンの間では「簡易改造車」「簡易更新車」などと呼ばれていたそうで、「やくも」のちょっとした“珍車”でした。

モケット

(左)座席 (中)カーテン (右)カーペット

撮影日時・場所

撮影日時:2022年10月、2024年2月

場所:玉造温泉駅・出雲市駅ほか

備考

・当ページでは、「ゆったりやくも」の名を“2007年以降に改修工事が行われた特急「やくも」用編成の通称”として用います。「ゆったりやくも」は列車名ではない旨、ご注意ください。

グリーン車 入口

グリーン車のドア脇(左/上)と貫通扉の様子。

「ゆったりやくも」では行先表示内で号車番号や座席種別を表示している(先述)ため、ドア脇のサボ受け(号車・種別)は撤去されています。

1号車 グリーン車 車内

グリーン車に入ります。

車内は照明・座席・カーペットの交換がまるっと行われており、一見では国鉄型車両の車内に全く見えないのが面白いところです。

車内を反対から見た様子(左/上)と、天井を見上げた様子(右/下)。

照明はダウンライトを等間隔に配したものでこれ自体はシンプルですが、光の一部を天井にも当てて間接照明」的な要素が取り入れられているのは面白いところです。こういった“細かい演出”の巧さは、まさにJR西日本の“得意技”なのかもしれません。

1号車 グリーン車 座席

座席の全景(左/上)と車端部区画(右/下:※備考も参照)。

背もたれ・座面ともひねった構造や仕掛けはなく、シンプルな座席です。ただ、そのシンプルさゆえか、実際に着座した時の身体へのフィット感は存外悪くありません。座面も適度にハリがあり、疲れにくい構造なのも高評価をつけられるポイントと言えます。

やや簡素にも見えるこの座席ですが、“もっとも単純なものが優れている”のは(座席のみならず)何ごとにおいても重要なことです。まさに「シンプル・イズ・ザ・ベストを地で行く座席」と言っても決して過言ではないかもしれません。

【備考:「ゆったりやくも」グリーン車の1B席事情】

車端部の1B席は、岡山発・出雲市行きにおいて(業務用コンセントの関係で)フットレストがなくなります。代替として荷物棚上に三角状のオットマンが配置されていましたが、取材中の私は全く気づきませんでした(苦笑)。

変わって一人掛け。(左/上)が全景、(右/下)が座席のアップです。

どこかで見たことのある座席ですが、283系「オーシャンアロー」のグリーン車がほぼ同じタイプの座席を搭載していました。単なるモケット違いかと思いましたが、座席の型番は異なるそうです。

グリーン車 座席周り

座席を正面から見た様子(左/上)と、ヘッドレスト部分のアップ(右/下)。

背もたれは(大げさに言えば)凸形とも言える形状です。これは窓からの眺望に配慮した形状とのことで、この形状にすることで前席の眺望が少し見やすくなるそうです。

もっとも現在の「ゆったりやくも」グリーン車には、座席と窓の配置がそもそも合っていない席が一部に存在(左/上がまさに合っていない。→「備考」も参照するので、せっかく眺望に配慮した座席を搭載しても感がなくはないのですが、そこはご愛敬といったところでしょうか(苦笑)。

【備考:「ゆったりやくも」グリーン車の窓事情】

「ゆったりやくも」のグリーン車(非パノラマ車)は、元々普通車だった車両からの改造です。

そのため、窓と座席の配置は必ずしも一致しているとは限りません。「すぐ脇は壁」という座席も存在し、運悪く当たってしまうと眺望“以前”の話になってしまうので予約の際は注意しましょう。

具体的には、上り下りとも3・6・9番の席が眺望に難アリな座席になります。

なお同じ「ゆったりやくも」でもパノラマ車最初からグリーン車として製造されたため、座席と窓の配置は全て一致しています。当日の急な車両変更で非パノラマ車になった場合は別ですが…(苦笑)。

フットレスト(左/上)と、センターアームレスト(右/下)のそれぞれアップ。

フットレストは足を離すと勝手に復帰するタイプで、降ろした状態での固定はできません。モケットはカーペットと同一のものが貼られており、(明確に案内されているわけではありませんが)恐らく土足での利用が前提となっているようです。

ちなみに、このフットレストの金具部分は「グリーンマーク」状に成型されています。1990年代後半から2000年代前半にかけてあちこちで見られ、パッと見では>>185系「踊り子」のグリーン車(改造後)と同じフットレストのようです。

1号車 グリーン車 車端部

デッキと客室の仕切扉は車体中央にあるため、ドア脇の11列目は見ての通り1+1配置になっています。

デッキ寄りには何やら機器室のような箱がありますが、これは単なる「スペーサー」とのこと。元々が普通車のこの車両にグリーン車のシートピッチで座席を置くと、どうしても“余るスペース”が出てしまうためでしょうか。いずれにしても、改造車らしいポイントと言えそうです。

グリーン車 その他の車内設備

通路(左/上)と窓まわり(右/下)の様子。

(右/下)の写真は、例によって「眺望に難アリ」な9列目付近で撮影しています。これで景色を眺めるのは少々難しいというのがお分かりいただけるかと思います。

座席番号表記(左/上)と荷物棚のアップ(右/下)。

荷物棚は「やくも」「スーパーやくも」時代とは異なる“今風”のデザインでした。各部の特徴から、「ゆったりやくも」改造時に荷物棚は全交換となった模様です。

車内に備えつけの毛布(左/上)と運転台との仕切り扉(右/下)。

「ゆったりやくも」には都合4回乗りましたが、この毛布の存在は特に案内されていませんでした。グリーン車の利用者は使っていいものなのでしょうか?

グリーン車 デッキ

デッキ部分を2アングルから。

「ゆったりやくも」への改造にあたり、デッキの化粧板は全て木目調風に張り替えられました。床面はけっこう段差があるようで、至るところに黄線やゼブラ模様のシールが貼られて注意を促しています。

洗面台

続いて「水回り」を見ていきます。洗面台の全景(左/上)とシンクのアップ(右/下)。

色調は乳白色が基本で、シンプルながら清潔感のある仕上がりに。「やくも」時代は“デビュー時からの洗面台のマイナーチェンジ”または“自動水栓つき&ピンク系のタイル張り”のどちらかだったので、「ゆったりやくも」改造時に全面的にリニューアルされたものと思われます。

洗面台窓のアップ(左/上)と、「ゆったりやくも」…というか381系を語る上で欠かせない「エチケット袋」(右/下:※→「備考」も参照)。

洗面台窓は完全に埋められていますが、下部分がテーブル状に成型されており、ちょっとした小物置き場として使うことができます。

【備考:自然振り子式とエチケット袋】

381系が初めて導入した自然振り子式は、(ものすごく雑に説明すると)車体と台車の間にコロと呼ばれるローラーを設置し、車体に遠心力がかかるとコロが転がることで車体が傾く仕組み」です。非振り子式の車両よりも安全・高速にカーブを通過でき、乗客の乗り心地向上にも寄与する…はずでした。

しかしこの自然振り子式には、

曲線に入ってから(=車体に遠心力がかかってから)初めて車体が傾く
・車体が一気に最大限度まで振れる

という(遠心力を活用するゆえの)欠点があります。揺れ方が他の車両と異なるのに加え、左右のカーブが小刻みに連続するという伯備線特有の事情もあって運用開始早々に乗り物酔いを訴える乗客が続出してしました。

各趣味誌における「各座席にエチケット袋が備えられた」というエピソードは有名ですが、現在も洗面台にエチケット袋が常備されているのはこの名残です。

(さらに補足)
以後「乗り物酔いしやすい」がもっぱらの評判になってしまった381系は、一貫して「げろしお(くろしお)「ぐったりはくも(ゆったりやくも)」など投入列車名をもじった揶揄が趣味誌などで散見されるようになってしまいました。

最近は、特に山陰本線内での縦揺れがひどいことから「ジャンピングぐったりはくも」と呼ぶ人もいるとか。当時最先端の自然振り子式を導入し、最後の国鉄型特急車の定期運用と華々しい実績が数ある381系ですが、愛称には最後まで恵まれなかったようです(笑)。

トイレ

トイレ(左/上)と、男子小用トイレ(右/下)の様子。

かつてはこの車両デビュー当初からの和式トイレでしたが、「ゆったりやくも」への改造にあたり全て洋式に換装されています。

便座はウォームレット、「ながす」ボタンは非接触式子供用チェアも完備など、現代の仕様が数多く導入されていました。

このページは2ページ構成です。次は>>普通車 編 です。

概説

デビュー年:1973年(381系のデビュー)

中央西線の電化にあわせて1973年にデビュー。曲線区間での高速走行を目指し、振り子式を採用しているのが特徴。

従来車両では曲線の通過速度が最大でも本則速度+5km/hだったが、自然振り子式の導入により381系では本則+20km/hまで可能になった。自然振り子式とは、車体にかかる遠心力を用いてコロで支持された車体を最大5度まで傾斜させる仕組み。乗客への遠心力軽減と乗り心地の向上を図っている。

ただ、この自然振り子式には「曲線で振れ始めが遅れ、急に最大限度まで振れる」という欠点があった。そのため乗り物酔いを訴える乗客が続出し、381系の投入列車名をもじって「げろしお」「はくも」などと揶揄されたという。「各座席にエチケット袋が備えられた」というエピソードが各趣味誌で紹介される場合があるが、2024年時点でエチケット袋は洗面台に設置されている。

JR西日本の「やくも」は2024年4月現在、国鉄型特急車両の最後の定期運用となった。同年3月の改正で後継となる273系への置換が開始されており、今後順次置き換えられる見通し。

このページは2ページ構成です。次は>>普通車 編 です。

タイトルとURLをコピーしました