455系700番台「北陸地区」(クハ455-701・クハ455-702)

455系700番台「北陸地区」(クハ455-701・クハ455-702)

北陸地区のローカル列車といえば、2010年代に入っても「国鉄急行型」(以後、急行型)の“ラストフロンティア”と言っても過言ではないほどに、475系列が幅を利かせていました。しかし後継となる521系の導入によって徐々にその数を減らし、北陸新幹線の開業により2015年で運用を終了。これにより、153系の時代から続いた急行型の時代に完全に終止符が打たれた…かのように見えました。

しかし、その急行型の外観を、最後まで残していた車両が2両存在するのをご存知でしょうか。それが今回取り上げるクハ455系700番台です。
不足していた413系の先頭車を捻出するために475系列の中間車を先頭車化改造し、1986年にデビューした同車。当時、製造から30年が経過していなかったことから車体はほぼそのまま流用され、「413系の先頭車」として、急行型の外観を残したまま活躍していました。

この車両、えちごトキめき鉄道に譲渡された今こそ話題になっていますが、JR西日本在籍当時は「あくまで改造車」なためか「曲がりなりにも413系の一類型」なためか、「最後の急行型」ながら鉄道ファンの間ではほとんど話題にならなかったような気がします。しかし、たかが改造車と言うなかれ。車内に足を踏み入れると、懐かしい急行型の風情がそこにありました。さっそく見ていくことにしましょう。

モケット

(左)普通席 (中)床材 (右)カーテン

撮影日時・場所

撮影日:2019年6月2日

撮影場所:七尾線 七尾駅 車内

備考

特にありません。

車内全景

車内の様子。ドア付近をロングシートへ換装しつり革を増設、デッキの撤去など「近郊型」らしい車内設備になっていながら、窓や天井に目をやると昔ながらの「急行型」という、この「ちぐはぐ」が最大の見どころです(笑)。ボックスシートが中央4区画を残して撤去され、ロングシートの比率が高いためか、パッと見では「近郊型の車内」として違和感ない仕上がりにも見え、そこが面白いところでしょうか。

座席モケットは、北陸地区の475系や413系で見られるベージュ系のものが用いられています。余談ですが、その昔に北陸で見られた通称「食パン」こと、419系も同一のモケットが採用されていました。

座席 – ロングシート

というわけでまずはロングシートから。左がロングシート全景、右が座面のアップです。同区間を走る413系で見られるものと共通のものが採用されているようですが…正直何人がけなのかはよく分かりません(笑)。

目につく点として、ドア脇の仕切部分に透明なアクリル製の仕切が設けられています。北陸地域、冬場はそれなりに冷え込むので、ドアから冷気が入りこむのを防ぐ趣旨で設置されたとのこと。しかし、このサイズで果たしてどの程度「防寒」の効果があるのかは疑問なところです。
結果として、ドア脇に立つ利用者と、最もドア寄りに着座した利用者を分ける“境界”としての意味合いの方が強くなっているのは否めません。

座席 – 優先席ロングシート

運転台寄りのロングシートは、ドア寄りの2人分が優先席となっています。JR西日本共通の優先席モケットへ近年張り替えられたようで、「優先席」を示すシールも貼られていますが、よく見ると優先席の下に一般席の座席モケットがチラリ(笑)。

優先席とは何も関係ありませんが、運転台部分の化粧板と、手前(座席部分)のそれの色合いが微妙に異なるのは、もともと中間車だった車両を先頭車化改造したことによるものでしょうか。実際に見ると、改造から30年以上経つとはいえ、写真で見る以上に運転台回りだけ、妙に“新しい”印象でした。

ボックスシート

続いて、中央4区画にのみ残るボックスシートをご紹介。こちらは急行型だった時代から特に変更なく、特有の大ぶりな座席がそのまま残っています。
窓際にもひじ掛けが設けられていますが、これは急行型のボックスシートの“象徴”とも言えるもので、同じ国鉄型でも113系や415系など、近郊型のそれには設けられていません。シートピッチも近郊型のそれより広めにとられており、座った感じはもう「急行型」そのものと言っても過言ではないでしょう。

惜しむらくは、改造に伴って窓際のテーブルが撤去されてしまっている点でしょうか。413系と設備を合わせた関係なのかは知りませんが、テーブルが残っていれば、急行型の雰囲気を楽しむ上で「申し分ない」環境だったと思うだけに、そこが唯一残念なところです。

座席を正面から映した図(左/上)と、座席肩部の握り手(右/下)を。定期列車として運用される車両で、急行型のボックスシートを最後まで残した車両でした。

荷物棚2種類

一般の人にとってはどうでも良いことかもしれませんが、この455系700番台、ロングシート部分とボックスシート部分で荷物棚が異なっているのが特徴です。写真(左/上)がその境界となる部分で、ロングシート部分は昔ながらの網、ボックスシート部分はパイプ式が採用されています。

北陸地域で見られた475系はもともと「全て網棚」のパターンと、この車両のように「ロングシートのみ網棚、ボックスシートはパイプ」が混在していたため、この455系700番台はたまたま後者のパターン、ということなのでしょう。もっとも、どういった理由でこれらが使い分けられていたのかは気になるところです。ご存知の方いらっしゃいましたら是非ご教示ください。

変わってボックスシート部分のパイプ式荷物棚(左/上)と、境界部分の様子(右/下)です。一見では気づきにくいですがよく見ると青いサビが浮いており、この車両の長い歴史を感じます。

各種車内設備

続いて各種の車内設備を見ていきます。まずは天井(左/上)と窓間のコートかけ(右/下)。空調設備は急行型の時から大きく変わっていません。クーラーの奥にある丸いモノはスピーカーです。窓間のコートかけも、この細いタイプのそれは近年、もはや“絶滅危惧種”入りしていると言っても過言ではないほどに貴重なものとなってしまいましたねぇ。

非常用ドアコックの様子と(左/上)、車両の製造年と製造工場の表記(右/下)。もともと銘盤がついていたものと思われますが、なぜか撤去されており、化粧板にインクで直接描かれています。

しかし昭和46年(1971年)製ということは、取材した2019年現在で、実に48年目。数々の改造を経ながらここまで生きながらえた車両もなかなか珍しいのではないでしょうか。

ロングシート部分の通路(左/上)とボックスシート部分の通路(右/下)をそれぞれご覧いただきます。ロングシート部分は随所に補修された後がありますが、ボックスシート部分のそれはわりあいきれいでした。

窓のアップ(左/上)とロングシート部分のつり革の様子(右/下)。窓は下半分はご覧のように、ツマミが撤去されて開けなくなっています。ツマミがあったところは上から金属板が貼られていますが、そこから雨水などが入ってくるためか、周囲のサビや汚れがどうも目立ってしまっています。それだけ長い間走り続けてきた、ということなのでしょう。

ドア

乗降用ドア(左/上)と、入口部分のステップ様子(右/下)。デッキこそ撤去されていますが、国鉄急行型のパイオニアとなった153系から続く大型片開きのドアがいまだに健在です。475系列は、地方に残る低いホームに合わせるために乗降用ドアにステップが設けられており、これが451系に端を発したいわゆる「交直流型急行型」の一つの特徴でした。

(※ 補足すると、低いホームが残る路線での運用を想定していなかった153・165系列はステップが設けられていません。)

車端部

最後に車端部にあるトイレ・洗面台・その他を一気にご紹介します。こちらは急行型時代から大きく手を加えられず、昔ながらの「デッキ」の面影をよく残しています。古めかしい無骨なSOSボタンも健在ですが、かつて存在したと思われる車両番号のプレートはやはり撤去されており(右/下)、化粧板に直接表記されています。破損したのかなと思いましたが、ここまで徹底していると盗難防止の意味合いが強そうに感じます。

洗面台の脇には非常はしごが設けられていますが(左/上)、この非常はしご、よく見ると「モハ470-7」の表記があります(右/下)。これはクハ455-701に搭載されているものですが、モハ470-7が気になって調べてみるとクハ455-701の隣に連結されているモハ412-4の元車番でした。モハ470にも改造前はトイレがあったことから、そこから移設されたようです。475系の原型となった471系の歴史を残す貴重な“逸品”なので、乗車した時にはぜひ見てみてください。

なお、クハ455-702の同区画にもはしごはあるものの、車両番号の表記がありません。そちらはどこから持ってきたものなのか気になるところです。

洗面台

洗面台の様子。(左/上)がクハ455-701、(右/下)が455-702です。
両者を比較して、クハ455-701は「ごみ箱あり」「うがい用コップ受けあり」「水栓スイッチが埋め込まれている」のに対し、クハ455-702は「ごみ箱なし」「うがい用コップ受けなし」「水栓スイッチ外付け(出っ張っている)」「全体的に薄汚れている」が挙げられます。単なる個体差のようにも思えますが、思った以上の違いがあったので項目を分けて紹介しました。

ちなみに洗面台脇にある丸形の小さいシンクは「たんつぼ」です。具体的な用途を詳しく書くとやや汚い話なので、気になる方はご自身で調べてみてください。ちなみに、すっかり無用の長物となった現在でも水が流れました。

トイレ

トイレ内部の様子(左)と入口の「便所」のプレート(右)。こちらはデビュー当初からこんな感じなのでしょう。

おまけ

先頭部分の様子(左/上)。片側のみ、ドア直後の窓がなぜか戸袋窓状になっています。写真右に通常の二段窓が映っていますが、この上に行先表示器が来ると窓に干渉してしまうことから、おそらく上にある行先表示器を配置する関係でやむを得ず戸袋窓状のものを採用したのでしょう。実際の戸袋部分には窓がないため、ドア~窓まで妙に間延びした印象を受けますが、これも改造車らしいポイントではないでしょうか。

(右/下)はおまけとして、クハ455-701の車内を撮影した動画をご紹介。写真では伝わり切らない雰囲気をぜひ感じていただければ幸いです。

車両概説

デビュー年:1986年(クハ455系700番台としてのデビュー年)

国鉄分割民営化前後に、ローカル輸送向け車両を安価で製造するために当時余剰となっていた455系列を改造したのが413系(及び717系)であるが、この413系を製造するにあたり先頭車に不足が生じていた。そこで、同じく余剰となっていた455系の付随車(サハ455)を先頭車化改造して登場したのがこのクハ455系700番台である。1986~1987年にかけて2両が改造された。
改造された時点で、製造から30年未満であったことから車体更新はされておらず、急行型の車体をそのまま用いている。

車内はデッキを撤去し、中央4つを残してボックスシートをロングシートへ改装。運転台やジャンパ管は413系と同一の仕様となっている。そのため「クハ455」を名乗っているが、455系列で組成された編成の先頭車としては使用できない。

改造から一貫して北陸地区で運用。北陸新幹線の金沢開業前は、直江津や敦賀まで顔を出していたが、晩年は七尾線を中心に運用されていた。

2021年3月のダイヤ改正で引退。引退後、クハ455-701を含むB04編成がえちごトキめき鉄道へ譲渡され、2022年現在で、いわゆる「国鉄急行型」の外観を残しながら運用されている最後の車両となっている。クハ455-702を含むB11編成は2022年9月13日付で廃車となった。

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