111系「リニア・鉄道館」保存車
2009年にオープンし、新幹線を多数展示していることで話題となった名古屋の「リニア・鉄道館」。メディアなどでは新幹線の展示ばかり扱われる気がする日この頃ですが、同所には在来線で活躍したディープな車両の数々も多数展示されています。
このページでは、その一つであるクハ111-1を取り上げます。元々この車両は、東海道線の東京口と静岡口をメインに運用され、名古屋地区にはあまり縁がない車両でした。
しかし高度経済成長期を支え、その後の113系に代表される「近郊型電車の原型となった歴史的意義のある車両」ということで保存対象に選ばれたようです。
展示にあたってピカピカに整備された111系。昔ながらの「湘南色」も誇らしげに、今日も多くの来場者を魅了しています。
モケット
(↑)普通席
撮影日時・場所
撮影日:2017年01月・2019年6月
撮影場所:名古屋 リニア・鉄道館 館内
備考
当ページでは解説の便宜上、111・113・115系など「国鉄時代に製造された近郊型電車」の総称として「111系列」と記載しております。
車内全景
車内に入ります。リニア・鉄道館では車内も公開されているものの、一般で立ち入りできるのは第一ドア~第二ドアの間のみとなっています。また車両を末永く保存する観点から座席への着座、カーテンの展開などは禁止されています。
車内は薄い緑色の化粧板、昔ながらの青いモケットなど、111系デビュー当時の雰囲気がそのままに残されています。今日の113系や115系の車内に見慣れているとどこか違和感がありますが、これはクロスシートの横幅が狭く、代わりに通路が広いことによるものです。
一部の座席には「着席禁止」のプレートがありますが、プレートがないからといって座って良い席ではありません。
乗降用ドア前にある「座らないでください」の看板の通り、「全席着席禁止」です。
クロスシート
クロスシートの様子。一見何の変哲もないように見えるクロスシートですが、111系列の中でも最初期に製造された車両のため、細かい仕様が異なっています。
目につく限りでも、「背もたれ下部の張り出しが少ない」「クッションが全体的に薄い」「111系の中でも初期の車両にしか搭載されなかった座席肩部のかまぼこ形手すり」などの違いが見られます。
このタイプの座席、2010年頃までは、新潟や広島などで数少ない“残党”が奮闘していましたが、現在、営業路線上ではほとんどお目にかかれなくなりました(というか、絶滅したと思われます)。
ドア脇ロングシート
ドア脇は2人がけのロングシートです。「リニア・鉄道館」では着座が禁止されているため座ることはできないほか、カーテン類の展開なども禁止なので、付帯設備類は展開しない状態で撮影しています。カーテンがどんな柄なのかは気になるところです。
各座席には灰皿も残っており、JNRマークが今も輝いています。
運転台直後の区画
運転席直後の区画はこのようになっており、機器室の関係で運転席側は2人がけ、反対側は3人がけ席という、左右非対称の作りになっています。全景(左/上)と2人がけ(右/下)の様子。
こちらにもかつての国鉄型車両では“定番”でもあった、薄い緑色(アイスグリーンというそうです)の化粧板がきれいな状態で残っています。
反対側は3人がけ(左/上)。窓まわりの形状は同一で、機器室がない分、座席を単に1席引き延ばしたような設計です。
(右/下)は車内記載の車両番号。111系の車両番号は銘板(プレート)の上に記載されている例が多いのですが、この車両は盗難防止のためか、車内に直接書かれています。
車内設備
天井の様子(左/上)。クハ111-1は最後まで非冷房だったため、天井に空調装置の類はなく、扇風機が一定間隔で並ぶのみとなっています。この妙にすっきりした天井、非冷房車がほとんどなくなった昨今ではすっかり目にする機会が減りました。
(右/下)は車内放送用のスピーカー。国鉄メークの通勤型・近郊型電車では“定番”ですね。ただ、妙にこもった音で、特にトンネル内に入ると放送がほとんど聞き取れないシロモノだった記憶があります。現在もスピーカーとして使えるのでしょうか?
網棚(左/上)と窓間のコートかけ(右/下)。網棚は、金網が張られた昔ながらの“網”棚です。
窓間にはコートかけが設けられていますが、これは最初期の車両に搭載されていたタイプ。現在残っている111系列より全体的に細いのが特徴です。
コートかけは金属製ですが、長年使い込まれてきたためか表面には錆びが。この車両の長い歴史を感じます。
通路(左/上)とクロスシートの手かけ(右/下)の様子。手すりは、やはり111系列の最初期ロットでしか見られない「かまぼこ形」で、優美な曲線が美しいです。
手すりとしてはこれでもいいような気がしますが、これだと1人しかつかむことができず混雑時に難が出たことから、中期以降の車両では(今日でもよく見かける)四角形の手すりに改良されたそうです。
概説
デビュー年:2009年(リニア・鉄道館での展示開始)
名古屋に所在する「リニア・鉄道館」で保存されている111系先頭車 クハ111-1を取り扱う。
113系の原型となった111系の先頭車であり、1962年に製造。以後、東海道線の東京口で使用されたのちに静岡へ転属し、東海道線を中心に運用された。
同車は国鉄分割民営化前の1987年に営業用車両としての一線を退き、その後静岡県の天竜にかつて存在した「佐久間レールパーク」にて1991年から展示されていた。その後2009年にリニア・鉄道館に移設され、現在に至っている。
車内は第一ドア~第二ドア部分までが公開されており、登場当時の内装を現在に残している。なお、リニア・鉄道館の規定により、座席への着座などは不可能。