E501系「常磐線」

E501系

1995年に、初の交直流型“通勤”電車としてデビューしたのがこのE501系です。

当時は「将来的には403・415系だけでなく、常磐快速線の103系の置換も視野」と趣味誌に記載されるなど、幅広い活躍が期待されていました。しかし、そのわりに製造は60両で打ち切られ、E531系の投入がスタートした2007年以降は土浦~いわき間でローカル輸送に徹しています(→「備考」も参照)

さて、写真は夜のいわき駅に停車中のE501系。一部編成は行先表示がLED化されています。

【備考:E501系が開発された経緯】

1990年代前半の常磐線は、常磐快速線の北限である取手以北からの通勤需要が年々増加しており、3ドアの403・415系ではその対応に限界が見えていました。

上野~取手で並走する常磐快速線を延伸しようにも、常磐線は取手を境に南は直流電化、北は交流電化。従って、常磐快速線(当時は103系)の電車は取手以北に延伸できません。

そこで、交流・直流双方に対応した「通勤型電車」を開発すれば、上記の問題は両方とも解決できます。これがE501系の‟開発コンセプト”と言えるもので、当時最新鋭だった209系をベースに開発が進められました。

(さらに備考)
少数増備に終わった理由には諸説ありますが、

・急増する旅客需要への対応で“急ごしらえ”したのがE501系であり、最初から大量増備の予定はなかった
・通勤需要に特化しすぎたゆえ、ローカル区間での使いにくさが露呈した

などが代表的な‟説”として提唱されているようです。参考までに記載します。

車体側面の様子。写真(左/上)が川崎重工製、(右/下)が東急車輛製となります。

E501系は川崎重工と東急車輛が製造した編成があり、外観上は「窓枠の四隅の丸み」で違いで見分けることができます。

モケット

(↑)普通席

撮影日時・場所

撮影日:2020年9月27日

撮影場所:常磐線 いわき駅 車内

備考

特にありません。

車内全景

では車内へ。川崎重工製東急車輛製の車両で内装にも若干違いがあるのですが、大枠は共通なのでまずは一括りにして紹介します。細かい違いはのちほど見ていくことにしましょう。

車内は先に登場していた209系を色濃く受け継いでおり、パッと見の違いは背ズリ(=背もたれ
部分のモケットがグリーンになっている程度の違いしかありません。

座席

座席の様子。全景(左/上)と座面のアップ(右/下)になります。

現在のJR東日本の通勤電車ではすっかり見慣れた形状ですが、座面は固めのウレタンを重ねただけのような感じです。通勤電車という点を差し引いても、居住性は大したものではありません。

座面をよく見ると、経年からかモケットに“しわ”や“色あせ”が散見される個体がチラホラありました。ただのメンテナンスの誤差かもしれませんが、随所に「疲れ」が見えてきているのは否めないように感じます。

車端部 – 川崎重工製(K701~K703・K752~753)

車端部の3人がけ座席まわりは川崎重工製東急車輛製で若干異なっているため、それぞれ分けて紹介します。まずは川崎重工製から。

車端部の壁側に、ドア脇の仕切と同じ“くぼみ”がある(ゆがんだ五角形のモノがそれ)のが最大の違いしょうか。そのほか、目に付く限りでも「貫通扉上のカバー類の形状」「写真左上のキセボックス(車両番号を記載してある場所)」の形状などが、東急車輛製のそれとは異なっています(→「備考」も参照)

【備考:E501系の貫通扉事情】

E501系は、209系から引き続いてモーター車のユニット間に貫通扉がありません。

「2両1組で使用するモーター車は原則切り離さないため、貫通扉は不要」という発想だったようですが、外気がホロから流れ込んできて空調の効きに影響したのか、後年のE231系以降では全車に貫通扉が付くようになりました。

車端部 – 東急車輛製(K704・751・753)

続いて東急車輛製。こちらは比較用に、貫通扉のある車両で撮影しています。

座席まわりは共通ですが、貫通扉上のカバー形状・車端部壁の処理に注目です。ぜひ上の「川崎重工製」のそれと見比べてみてください。

車端部優先席 – 川崎重工製(K701~K703・K752~753)

変わってこちらが優先席の区画です。こちらもまずは川崎重工製から。

基本的な違いは先述の「車端部」で紹介した通りです。

車端部優先席 – 東急車輛製(K704・751・753)

で、こちらが東急車輛製の車端部区画になります。

(おまけ)座席の色

一般席区画と優先席区画で、特に「色の個体差」が激しかった区画をご紹介。

一般席区画(左/上)は、写真左の座席がかなり色あせているのに対し、右側の手前5人分はやけに色味が濃いのがお分かりいただけるかと思います。優先席(右/下)は、もう言うまでもないでしょう。実際に見ると、写真で見る以上の違いがありました。

色の濃い方が比較的モケットの手触りが滑らかだったので、これが本来の色味なのかもしれません。

1号車 優先席 – トイレ脇区画

閑話休題。トイレ脇の優先席区画の様子です。

E501系はトイレ非設置でデビューしましたが、2007年の土浦以北への転用時にトイレが設置されました。10両編成の両先頭車・5両編成の1号車が設置の対象となり、かつて車端部にあった優先席はトイレ脇の7人がけロングシート2人分に移動しています。

1号車 フリースペース(10両編成)

トイレの向かい側は、車いすやベビーカーの利用者向けのフリースペースとなっています。

向かい側がトイレで照明が少ないこともあり、夜間はかなり薄暗い空間になります。

車内設備

天井(左/上)と荷物棚のアップ(右/下)。

デビュー当時から大きく変わったと思われる点は見られません。ラインデリア(天井中央の送風機)は、経年のためか、だいぶ黄ばんでしまっています。

車内防犯カメラ(左/上)と、座席下ヒーター(右/下)のアップ。

JR東日本では既存車両への車内防犯カメラ設置が進んでいますが、E501系にも2019年頃から順次カメラが設置された車両が出ています。他の従来車と同じく、蛍光灯ユニットに後付けする形で設置されました。

窓のアップ。デビュー時からの固定窓(左/上)と、開閉化改造後(右/下)の様子です。

工期や改造費用を短縮するため、窓を2分割して片側のみ開閉可能とした構造を採用しています(→「備考」も参照)

【備考:E501系の窓事情】

E501系は車体の構造が209系ベースなのは先述の通りですが、かつては車端部3人がけ部分の小さい窓のみが開閉可能で、その他は全て固定窓となっていました。

しかし、>>2005年に京浜東北線がラッシュ時に長時間立ち往生(ウラ3の項)した時に体調不良者が多数出たのを教訓に、「固定窓」の車両も側窓の開閉可能化工事が決定。その後本系列のほか、E217系などにも展開されました。

E501系は編成数が少ないためか、2006年9~10月と僅か1か月で全車の工事を完了しています。

つり革

つり革の様子。一般席(左/上)と優先席(右/下)となります。

優先席のつり革は近年交換されましたが、一般席のつり革は登場当初からのものと思われます。

川崎重工製東急車輛製の違い その他

川崎重工製東急車輛製の内装上の‟違い”を紹介します。


車端部の妻面。川崎重工製(左)は、フタ(いわゆるキセ箱。中にスイッチ類がある)の上に車号表示のシールが貼られています。

他方、東急車輛製(右)はこの部分にスイッチ類がそもそもないらしく、車号表示の周りはすっきりしています。

ドア上のドアコックのフタも製造メーカーにより形状が異なっています。川崎重工製(左/上)と東急車輛製(右/下)の様子。

東急車輛製(右/下)の車両には、かも居部の広告枠下に出っ張りがあります。最近の車両で見られるような「最混雑時に掴むための場所」として使うにはサイズが小さく、恐らく単なるデザインと思われます。

トイレ

常磐線ローカル運用への転用に伴って、新たに設置されたトイレの全景(左/上)と内部(右/下)。

後付けの割には、「いかにも後からつけました」という感はなく、自然に溶け込んでいるように感じます。見た目こそけっこう新しいのですが、洗浄方式は昔ながらの循環式でした。

トイレの設備まわりをアップで。

まだ「非接触式ボタン」という発想がなかった頃の設置なので、トイレの「ながす」や扉の開閉はボタン式です。

おまけ

最後におまけとして、取材後に時間が余ったので適当に撮影していた写真をご紹介。蛍光灯に照らされるE501系(左/上)と、車内と走行中の様子を撮影した動画(右/下)。写真では伝わり切らないE501系の車内の様子をお楽しみください。

どうせ4ドアの銀色の電車でしょ?」と言うなかれ。E233系やE235系に見慣れた今、改めて乗ってみると随所に「レトロ(もはやE系列にこの言葉を使う日が来るとは)」な点が見受けられるのが面白いところです。

概説

デビュー年:1995年

常磐線の通勤輸送向上を狙って1995年にデビュー。通勤時間帯の混雑緩和と、当時常磐線で使用されていた403・415系の置換、さらには常磐快速線の103系の置換も視野に入れて開発された。

本系列が開発された時期は、常磐快速線の北限である取手以北からの通勤需要が伸びており、3ドアの403・415系ではその対応に限界が見えていた。一方で、常磐線は取手以北が交流電化となることから常磐快速線の103系(直流電車)では乗り入れができない。

そこで、交流にも直流にも対応し、輸送力は103系と同等の本系列が開発されることとなった。基本的な構造は先にデビューしていた209系をベースとし、交流に対応した電装品の配置を行っている。それによって車体重量が増加したことから車体外板を209系より厚いものとするなど、外見は似通っているが電装品以外にも差異がある。最高速度は120km/h。

10両編成・5両編成がそれぞれ4編成ずつの60両が製造されたところで製造打ち切りとなり、403・415・103系を完全に置き換えるには至らなかった。

2007年までは上野~土浦間で使用されていたが、E531系の登場により同年3月をもって同区間での運用を終了。トイレを装備するなどの改造を経て、常磐線の土浦~いわき~草野・水戸線(5両編成のみ)へ転用された。しかし、2018年に入って水戸線運用時の本系列の故障が多発するようになり、同年9月をもって水戸線からは撤退し、2022年現在は常磐線の土浦~いわきの普通列車で使用されている。

10両編成と5両編成があり、それぞれ運用が分かれている。なお、10両編成は編成数4本に対して4運用と予備車が存在しないため、故障・検査時はE531系が代走する。

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