20系客車ブルートレイン 国民宿舎「関ロッジ」 – 個室/車内設備
三重県亀山市に存在する国民宿舎「関ロッジ」(当時)では、かつて宿泊施設の一部に20系客車「ナハネ20 2237」が使われていました。
同車は1985年の廃車後、同所へ移設。この際に内装の個室化などを施され、それから一貫して宿泊施設として“第二の人生”を歩みます。他の20系保存車が続々と解体されていく中、「一般人が泊まれる最後の20系」として貴重な存在でした。
しかし、2014年7月頃から「客車の老朽化」を理由に20系客車の宿泊受付が停止され、翌2015年3月31日限りで国民宿舎「関ロッジ」自体が閉館。2年後の2017年8月にゲストホテル「関ロッジ」として再スタートを切ったものの、20系客車には宿泊できなくなりました。現在も客車そのものはカバーをかけられて現存していますが、将来的には撤去する方針とのことです。
写真は、宿泊可能だった頃の20系客車の全景。営業末期は、車体の塗装が剥がれてサビが浮いているなど、状態はあまり良くありませんでした。
車体側面(左/上)と台車の様子(右/下)。屋根部分はホロで覆われているほか、窓部分にはガムテープによる補修跡が見られます。
お話を伺ったスタッフの方によると「個室内への雨漏りがひどく応急的にホロをかけた」とのことですが、“応急的”というわりにホロを固定する金具はサビサビでした。恐らくかなり前からこの状態だったのでしょう。
【補足;ナハネ20 2237の車歴】
日 時 | 内 容 |
---|---|
1968/08/27 | 落成 向日町に配置 「あかつき」「彗星」などで運用 |
1972/10 | 青 森へ転属 「ゆうづる」「日本海」などで運用 |
1976/10 | 尾 久へ転属 「北陸」「北星」「天の川」などで運用 |
1977/10 | 品 川へ転属 「あさかぜ」で運用 |
1978/08/04 | ナハネ20 2237に改造 米 子へ転属 急行「さんべ」(夜行)で運用 |
1985/02/01 | 急行「さんべ」夜行 臨時化 定期運用消滅 |
1985/06/29 | 廃 車 |
1985/08/01 | 「関ロッジ」へ移設 宿泊施設として営業開始 |
2014/07 | 老朽化のため宿泊受付停止 |
モケット
(↑)寝台
撮影日時・場所
撮影日:2014年3月2日
撮影場所:国民宿舎「関ロッジ」 車内
備考
当項では、2014年3月の営業当時の写真を紹介しています。2023年3月現在、「関ロッジ」は民間により運営されており、20系客車への宿泊はできません。
個室内 廊下
廊下(左/上)と各部屋のドア(右/下)の様子から。
車内は元々3段式B寝台が展開していましたが、「関ロッジ」への移設時に個室に改修されています。4部屋は寝台2ボックス分、1部屋は寝台1ボックス分を使った5部屋が存在し、定員はいずれも2名でした。
各個室のドアは2枚の扉を固定してロックする方式です。ドアの風合いも一昔前の雰囲気ですねぇ。
天井(左/上)と非常口の表示(右/下)。
静態保存車は「建物」の扱いとなるためか、天井には煙探知機や非常用照明、通路には非常口の表示が新設されています。
3号室「やまびこ」
まずは3号室「やまびこ」の様子です。
1ボックスを使った部屋になり、「関ロッジ」の20系の中ではもっとも原型をよく残した個室です。ご覧のとおり客室内はかなり狭く、2人で利用するとやや手狭なのは否めません。もっとも、スタッフの方によると(私を含め)あえてこの部屋を指名する鉄道ファンは少なくなかったそうです。
右手側のベッドは就寝用、左側は中断寝台を撤去してポットやお茶の置き場となっていました。
縦撮りしてみるとこんな感じです(左/上、中)。
20系は天井を丸くして、車両の建築限界ぎりぎりまで上下幅を確保したため、3段式寝台でも思ったほどの「狭さ」は感じません。また、空調は個室内に家庭用のエアコンを増設して対応していました(右/下)。
【コラム:狭い「やまびこ」の空調事情】
この「やまびこ」はかなり狭いので、普段の感覚でエアコンをかけると一気に寒く(または暑く)なるのが特徴でした。
私の取材時は大雪だったため、とにかく早く暖めようと暖房を風量「強」でかけて、いろいろ撮影してから戻ってきたところ、室内はまるでドライサウナ状態。撮影どころではなくなったのは苦い思い出です。
下段寝台(左/上)と中段寝台(右/下)の様子。
寝台幅は52cmで当時の人の体格に合わせたとのことですが、後年の24系の70cmと比べると「狭さ」は否めません。
かつて20系の寝台は「蚕棚」と比喩(揶揄かもしれない)されたそうですが、言いえて妙だなと感じます。私も実際に寝てみたところ、寝返りを打つのがやっとでした。
変わって上段寝台の全景(左/上)と、上段寝台から下を眺めた様子(右/下)。
丸い天井を持つ20系ゆえか、実際に横になってみても583系の上段寝台ほどの狭さは感じません。そうは言っても上段寝台は床から実に2mほどの高さがあり、高所恐怖症の人にはあまりお勧めできない場所でした。
なお、上段はベッドは残っていますが「関ロッジ」では2人用個室として発売されているため、毛布は敷かれていません。
反対側の寝台はポットや宿泊約款、浴衣やタオルなどが備わります(左/上)。
また、窓際のテーブル上にはティッシュと灰皿が。個室内でタバコを吸う場合は、(車両に備え付けの灰皿ではなく)テーブル上のそれを使うよう案内されていました。「保存車の中で喫煙可能」だったというのも、現代ではかなり珍しい気がします。
車内にはテレビもあり、地デジ化以降ほとんど見かけなくなった「ブラウン管」のテレビが最後まで頑張っていました(右/下)。
読書灯(左/上)とスリッパ(右/下)の様子。
背もたれの一部をパカッと開けて使う読書灯は、20系の特徴でもありました。
中段・上段寝台へ登るハシゴの車両番号(左/上)と、個室内の注意書き(右/下)。
窓際のテーブルには昔懐かしい「栓抜き」も残っており、瓶飲料があれば「栓抜き体験」もできます。
私も「関ロッジ」の売店で買った瓶ビールをこの栓抜きで開けてみましたが、開けるには多少“慣れ”が必要でした。
【コラム:私のどうでもいい「栓抜き」の話】
ちなみに私は、売店で年配の係員の方に「何か瓶の飲み物ありませんか」と聞いたところ、「瓶の飲み物?あぁ、栓抜きやりたいのね」と笑いながら言われてしまいました。みんな考えることは同じようです(笑)。
1・2・5・6号室
続いて「やまびこ」以外の個室の様子。こちらは寝台2ボックスを1部屋にしていました。見ての通り、車両中央には畳が敷かれ、一般の利用者でもそこまで抵抗なく使用できるようになっているように思います。
こちらも定員は2人ですが、部屋の広さなどを考えると、よほどの鉄道ファンの方以外はこちらを利用された方がいいような気がします(笑)。
寝台のアップ。
こちらは中段寝台のみに布団が敷かれています。寝台そのものは基本的に先に紹介した「やまびこ」のそれと同じですが、破損でもしたのでしょうか、一部の転落防止の紐が車のシートベルトのようなものに交換されていました。
さすがに「関ロッジ」への移設から30年を経て、車体だけでなく内装にもかなり“疲れ”が垣間見える気がします。
天井の様子。天井にはエアコンのほか、金庫も備わっていました(右/下)。
靴置き場まわり(左/上)とテレビ周りの様子(右/下)。
こちらは先の「やまびこ」と比較して部屋が広いため、(靴を履く履かないという意味での)“下”と“上”が明確に区分けされていました。
>>このページは2ページ構成です。次は>>車内設備・車掌室・洗面台 編です。
概説
デビュー年:1985年(20系が移設された年)
国民宿舎「関ロッジ」とは、三重県亀山市にかつて存在した国民宿舎。通常の宿泊施設(本館)にかつて寝台急行「ちくま」「さんべ」などに使用された20系客車(ナハネ20系2000番台)が併設されていた。
車内は元々3段式B寝台だった車両を改造して、完全な個室が5部屋あった。通常の個室は寝台2区画を用いているが、一部屋だけ1区画のみを使用した部屋が存在。毛布やシーツなどは宿泊料金に含まれていた。
宿泊料金は一泊二食付の「ブルートレイン宿泊プラン」で一人5400円から(2014年3月現在)。本館に風呂・自動販売機・売店があった。
2014年7月下旬頃から、車両の老朽化のため20系車両への宿泊プラン受付を中止していたが、その後2015年3月31日をもって、国民宿舎「関ロッジ」自体が閉館した。建物は残され、2017年から民間の事業者がゲストホテル「関ロッジ」として運営中。20系客車も残存しているものの宿泊はできず、2023年3月現在、ブルーシートをかけられた状態で保存されている。