E351系「スーパーあずさ」 グリーン車/普通車
平成の時代、新宿と松本の間を、車体を左右に傾けつつ猛烈なスピードで行き来していたのがこのE351系です。1993年に「あずさ」としてデビューし、翌1994年からは「スーパーあずさ」としての運用がスタートしました。
「JR東日本が開発した初の振り子式車両」「JR東日本の特急車で初のVVVFインバーダー制御車」「系列名にEを付けるようになった初の車両」など、たくさんの初物を引っさげて中央線特急の華々しいフラッグシップに…なる予定でしたが、登場当初から振り子装置をはじめとした足回りのトラブルに悩まされたようです。
そんなE351系ですが、デビューから25年目の2018年に後継となるE353系と入れ替わる形で退役しました。退役後は全車が廃車・解体されています。
車体側面の「AZUSA」のロゴ(左/上)と行先表示(右/下)の様子。
パープルの車体は山梨県の藤の花をイメージしたものだそうです。また、行先表示装置は最後まで字幕式でした。
モケット
(左)グリーン席 (中)床材 (右)カーテン
撮影日時・場所
撮影日:2017年10月25日、29日、11月5日ほか
撮影場所:松本駅 車内ほか
備考
E351系は合計4回ほど取材していますが、取材時に当たった編成が偶然にも全て量産先行車だったことから、当サイトは全ての写真について量産先行車の車内を紹介しています。
9号車 グリーン車(量産先行車)
ではグリーン車の車内全景から。
車内は見ての通り、普通車と同じ2+2配置で展開しています。E351系の前にデビューした255系が「2+2配置」でありその流れを汲んだようですが、先代の183・189系が2+1配置の巨大な座席を引っ提げて「豪華路線」に進んでいた流れからみると、どうしてもレベルダウンしてしまっているのは否めません。
写真は量産先行車で撮影したため、荷物棚下に蛍光灯によるスポット照明が設けられているのが特徴です。このスポット照明は量産車では採用されず、量産先行車のみで見られた仕様でした。
【備考:なぜ量産先行車にはスポット照明があるのか?】
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902140754163877
このスポット照明は、単なるデザインではなく「車内改札の自動化」を目論んだものでした。
1994年頃にE351系のグリーン車デッキに、特急券のリーダー(読み取り機)が設置されて実証実験がスタート。これに磁気特急券を通すと、その部分のスポット照明が点灯(=「検札済)することで車内改札が省略されるという、今のJR東日本の「グリーン車Suicaシステム」「新しい着席サービス」に近い仕様です。
ただ、
・当時はまだ多かった「うらが白いきっぷ」に対応できない
・入口付近に利用者が滞留し、乗降に時間がかかる
など課題が多く、実証実験で終了。デッキのリーダーは撤去されましたが、荷棚下のスポット照明はそのまま残っていました。
車内を後ろから見たところ(左/上)と天井の様子(右/下)。
座席
ようやく座席です。通常区画(左/上)と車端部(右/下)の様子。
シートピッチはグリーン車標準の1160mm、座席回りの設備はインアームテーブル、フットレスト、読書灯とグリーン車に必要な設備は一通り持っています。
【備考:E351系ならではのシートヒーター】
E351系のグリーン車を扱う上で「シートヒーター」の存在は欠かせないでしょう。センターアームレストの小さなスイッチを操作すると、座席全体が暖かくなるという謎の設備です。
私も使ってみましたが、確かに座席は暖かくなったものの、冬場はただでさえ車内に暖房がガンガンにかかっているということもあってか、かえって暑苦しかった記憶があります。
分煙パーティション跡
E351系のデビュー当時は、グリーン車は車両の中央を境に禁煙と喫煙が分かれており、境目となる部分には分煙のためのパーティションが設置されていました。
写真(左/上)がパーティション跡、(右/下)が元パーティション直後だった区画です。設備面では車端部のそれに準じています。
車いす対応区画(13A、13D)
松本・白馬寄りの座席は車いすに対応した区画となっており、この部分のみ1人がけ席が配置されています。
座席周りの設備
写真(左/上)、ひじ掛け部分のアップになります。末期はひじ掛け表面のウレタンの剥げが目立っていました。
写真(右/下)は窓際の小テーブル。ペットボトルサイズのくぼみが設けられていますが、くぼみが他の車両と比較してやや深く取られていました。振り子式の本系列ならではの仕様なのでしょう。
各種車内設備
荷物棚まわりの様子(左/上)と読書灯の様子(右/下)。
通路の様子(左/上)と非常通報ボタン(右/下)。
グリーン車といえばカーペット張りの床が定番ですが、E351系では通常の床となっていました。
デッキとの仕切とLED表示装置
デッキと客室の仕切(左/上)と仕切扉上のLED表示装置の様子(右/下)。体裁は後述する普通車のそれと同じです。
※ 以下、トイレ内部の写真が含まれます。
トイレ
車いす対応トイレ・洗面台はグリーン車の隣である10号車に設けられていますが、ページのスペースの関係上こちらで紹介します。
車いす対応のトイレと洗面台は10号車の新宿・東京寄りに集約して配置されており、グリーン車の車いす区画からもあまり移動せずにアクセスできるよう配慮されています。
車いす対応トイレの内部。便座にはウォームレットが採用されていました。
トイレそのものはかなり清潔に維持されていますが、写真(右/上)をご覧いただいても分かるように、洗面台周りはかなり塗装の剥がれが進行しており、老朽化は否めませんでした。
>>このページは2ページ構成です。次は>>「普通車」編 です。
概説
デビュー年:1993年
中央線「あずさ」の高速化を狙って1993年にデビュー。
JR東日本が開発した初の振り子式車両であるほか、本系列からJR東日本の車両であることを示す「E」を系列名に入れるようになった点が特筆される。
「制御付自然振り子装置」を初めて導入。あらかじめ車両のコンピューターにプリセットされた線形に沿って振り子を動作させるもの。最大車体傾斜角度は5度で、半径600mの曲線で通常の車両より25km/h速い速度での通過が可能。振り子は八王子~松本間でのみ使用され、その他の区間では振り子を停止していた。
1993年のデビュー直後は「あずさ」で運用されていたが、1994年以降は一貫して「スーパーあずさ」専属で新宿~松本・白馬・信濃大町で運用された。間合い運用で「中央ライナー」(東京~八王子)、「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」(新宿~小田原)、臨時運用として「ムーンライト信州92号」の運用が存在した。
2017年12月以降、後継となるE353系への置換が始まり、2018年3月改正で全車引退となった。引退後は全車が解体されている。