キハ85系「(ワイドビュー)ひだ・南紀」

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グリーン車
普通車
洗面台ほか

キハ85系「(ワイドビュー)ひだ・南紀」

JR東海の特急といえば「ワイドビュー」シリーズがよく知られていますが、「ひだ」「南紀」で使用されていたキハ85系はその“はしり”となった車両です。

アメリカ・カミンズ製の大出力エンジンを引っ提げ、気動車でありながら当時は画期的だった最高速度120km/hを達成。高山本線の線路改良なども行われ、名古屋~高山の到達時間を一気に40分近く短縮しました。

老朽化により2023年3月で「ひだ」、同年6月に「南紀」からも引退しています。当ページでは、「ひだ」での最末期の様子を見ていきましょう。

モケット

(左)座席 (中)カーテン (右)カーペット

撮影日時・場所

撮影日時:2023年2月・3月

場所:高山駅 「ひだ」19・20号ほか

備考

「ひだ」「南紀」では、列車・時期によりグリーン車の連結位置が異なるため、本項では号車番号を記載しておりません。

「ひだ」仕様 半室グリーン車

キハ85系のグリーン車には「ひだ用に導入された半室グリーン車」「南紀用に導入された全室グリーン車」の2パターンがあるのですが、まずは前者から見ていきます。

車内はご覧の通り半室&2+2配置です。半室ゆえに定員確保が必要だった故の仕様だそうですが、後述する南紀仕様車と比較した場合の見劣り感はいかんともしがたい気がします。

車内を反対から見た様子(左/上)と天井の様子(右/下)。

デッキと客室の仕切扉に見られる「3つ目ガラス」は、今となってはレトロな雰囲気すら感じる気がします。天井周りは普通席と大差ありません…というか全く同一と思われます。

「ひだ」仕様 半室グリーン車 座席

座席の様子。(左/上)が一般席区画、(右/下)が車端部となります。

付帯設備はシートバックテーブル・インアームテーブル・フットレスト(土足禁止面あり)・読書灯などとなっており、グリーン車として必要な設備は一通り揃っていました。シートピッチも1,160mmと標準的です。

座席を正面から見た様子(左/上)と座席背面のアップ(右/下)。

ポケット部分は単純な網ではなく座席モケットが使われているため、見た目には豪華な雰囲気に感じます。すぐ上の、普通席と同一品と思われるテーブルが台無しにしていますが…(笑)。

「ひだ」仕様 座席周りのテーブル類

インアームテーブル(左/上)とシートバックテーブル(右/下)を、それぞれアップで。

インアームテーブルは小型の片面式です。

車端部区画のテーブル・フットレスト(左/上)とテーブルのアップ(右/下)。

「ひだ」仕様 その他の車内設備

通路(左/上)と座席上の読書灯(右/下)の様子。

座席が通路より一段上となる、所謂「ハイデッキ構造」です。

窓間のコートかけ(左/上)とデッキと客室の仕切扉部分(右/下)。

2+2配置、照明器具も普通車と同じ…と、「グリーン車らしさ」をあまり感じないと冒頭で書きましたが、よく見るとコートかけは金色。形状は普通車で見かけるそれと全く同一ですが(笑)、ささやかながら「ゴージャス感」を感じるポイントです。

「南紀」仕様 グリーン車

変わってこちらが「南紀仕様の全室グリーン車」の車内です。

こちらは2+1配置となっており、車内に足を踏み入れると巨大な座席がズラッと目に飛び込んでくる光景はなかなか壮観です(→「備考」も参照)

【備考:新天地で花開いた「南紀」仕様車】

もともとこの全室グリーン車は「南紀」に導入されましたが、当初から供給過剰だったようです。

2001年に「南紀」のグリーン車連結は多客期を除き廃止。主に名古屋~富山を走破する「ひだ」に新天地を見出すことになり、ようやく本領発揮となりました。

車内を反対から見た様子(左/上)と天井の様子(右/下)。

座席に“全振り”した分、他はシンプルに…ということなのか、通路部分は普通車と同じカーペット敷きです。

「南紀」仕様 グリーン車 座席

まずは2人掛け席から。(左/上)が一般区画、(右/下)が車端部です。

シートピッチは1,250mmで、「ひだ」仕様車のそれより90mm広がっています。座席の横幅は比べるまでもないでしょう。2人で座っても窮屈さを全く感じず、一人当たりの専有面積としては全国的に見ても抜きんでた存在だったように感じます。

1人掛け席の様子(左/上)と、その全展開状態(右/下)。

付帯設備はインアームテーブル・シートバックテーブル・フットレスト・読書灯「ひだ」仕様車と共通です(→「補足」も参照)

【補足:かつてはあったオーディオパネル】

付帯設備の補足として、かつては各座席にオーディオパネルがあり、(エアチューブ式が大半を占めていた1990年代前半では先進的だった)3.4mmイヤホンを差して聴くことができました。

2000年代中盤頃までは「ひだ」「南紀」専用のオーディオチャンネルが用意され、けっこう意欲的なサービスだったのですが、2000年代後半にオーディオサービスは廃止。その後はパネルがプレートで覆われていたものの、現在は跡形もなくなっています。

1人掛けの車端部(左/上)とその全展開状態(右/下)。

フットレストのアップ。(左/上)が土足面、(右/下)が土足禁止面となります。

土足禁止面は座席と同一のモケットです。

1人掛け(左/上)と2人掛け(右/下)を、それぞれ正面から見た様子。

この見た目の「どっしり感」が堪りません。

「南紀」仕様 運転台直後の区画(展望席)

「南紀」仕様のグリーン車ではご覧の通り前面展望が望め、インターネット上などでは通称「展望席」として知られていました(→「備考」も参照)

「ひだ」の場合、高山・富山方面行きが高山本線内で先頭となります。写真は全景(左/上)と、運転台直後のテーブル・フットレスト(右/下)。

【備考:末期はプラチナチケットだった】

この“展望席”、キハ85系の引退が迫った晩年は、1か月前の時点で埋まってしまう「プラチナチケット」状態でした。

私も取材にあたり、何度か試したもののいずれも取れずに終わっています。引退フィーバーが始まる前に、このバブリーな座席に身を預けて前面展望を楽しみつつ、名古屋~富山を乗り通してみたかったなと思った次第です。

カーテン(※「ひだ」「南紀」仕様 共通)

キハ85系グリーン車の特徴として、カーテンが「遮光カーテン」「レースカーテン」の2種類装備されている点が挙げられます。写真(左/上)が全景、(右/下)が鉄道車両では珍しい2列のカーテンレールの様子。

いまや鉄道車両のカーテンといえば、すっかりロールカーテンが主流となった現在では異彩を放っていました。なお、写真は「南紀」仕様車で撮影していますが、「ひだ」仕様車も同じ仕様です。

「南紀」仕様 その他の車内設備

通路(左/上)と読書灯(右/下)の様子。

通路側の読書灯は、座席の広さを考慮して斜めに取り付けられていますが、「ひだ」仕様車と比べてその角度はかなり急になっています。いや、実際そうでもしないと通路側まで届きませんので…(笑)。

窓間のコートかけ(左/上)と毛布(右/下)の様子。

金色だった「ひだ」仕様車とは異なり、こちらは普通席と同一の銀色。この違いは単なる製造時期の違いか、あるいは先述のように「座席に全振りした結果」でしょうか。いずれにしても興味深いところです。

「南紀」仕様 デッキと客室の仕切扉・荷物置き場

デッキと客室の仕切扉(左/上)と、荷物置き場(右/下)の様子。

荷物置き場の全幅は30cm程度と、「ひだ」仕様車に比べてやや狭くなっています。

おまけ

車外から見た「南紀」仕様グリーン車の様子(左/上)と、走行中の車内から撮影した動画(右/下)をご紹介。

写真だけでは伝わりきらない車内の雰囲気をお楽しみください。

このページは3ページ構成です。次は>>普通車 編です。
>>洗面台ほか 編もご覧いただけます。

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グリーン車
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洗面台ほか

概説

デビュー年:1989年

「ひだ」「南紀」で使用されていたキハ82系の置換用として1989年にデビュー。

車体は軽量化を狙ってステンレス製を導入。観光需要の高い高山本線・紀勢本線の投入を前提に設計されたため、側窓は大窓を採用。窓下に赤帯を配す、373・383系にも受け継がれた「ワイドビュー」シリーズの元祖である。

1989年から「ひだ」、1992年から「南紀」に導入され、それまで使用されていたキハ82系を置き換えた。以後、一貫して同列車に充当されてきたが、後継のHC85系登場により「ひだ」からは2023年3月改正で引退。「南紀」からも同年6月に引退した。

引退と相前後した2023年3月に、主に「ひだ」で運用されていた4両が京都丹後鉄道(WILLER TRAINS)に譲渡され、2024年3月から土日を中心に運行を開始。譲渡後も、ほぼJR東海時のまま使用されており、京都丹後鉄道ではKTR8500形を名乗っている。運用に入っているのは2両のみで、残り2両は部品取り車。

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