銚子電気鉄道2000形「金太郎ホーム号 大正ロマン電車」

銚子電気鉄道2000形「金太郎ホーム号 大正ロマン電車」

近年の銚子電気鉄道(以後、銚子電鉄)の車両は“京王電鉄OB”によって賄われていますが、今回取り上げるこの2000形もその一つです。元々は京王電鉄2010系として使用されており、伊予鉄道へ移籍して20年活躍したのち2009年に銚子電鉄へ移籍し、実に3社を渡り歩きました。

写真がその車両ですが、こちらは伊予鉄道時代に先頭車化改造を受けたもの。製造当初から先頭車だった車両のデザインは80系のような2枚窓ですが、(旧)京王5000系然としたデザインなのが特徴です。

2018年からそのうちの一両が「大正ロマン」をテーマにしたレトロ風電車に改装されました。その名も「金太郎ホーム号 大正ロマン電車」。車体はいわゆる青電カラーとなっており、これだけでも昔懐かしい雰囲気ですが、車内に入ると銚子電鉄の「大正ロマン電車」にかける力の入れようを見ることができます。さっそく見ていきましょう。

モケット

(左)普通席 (中)床 (右)カーテン

撮影日時・場所

撮影日:2018年10月16日

撮影場所:銚子電気鉄道線 銚子駅 車内

備考

2000形のうち、先頭車化改造された車両は2500番台に区分されていますが、2000形の一分類であることから当ページでは便宜上「2000形」として紹介します。

車内全景


車内に入ります。車内は座席を除いて至るところに手がかけられており、目に付く範囲でも「床材を木目調化」「手すりと窓枠を真鍮カラー化」「照明の電球色化」「窓にステンドグラス風のフォルムを張り付け」「つり革を木材に変更」が挙げられ、車内全体が「大正ロマン」一色に染まっています。

また、座席は旧来からのものがそのまま使われていますが、これは同社によるとワインレッドは大正ロマンを象徴するカラーであることから、座席はあえてそのまま残したそうです。

しかし、普通の殺風景な車内だと「古臭さ」しか感じないこの赤い座席も、周りの雰囲気が変わるだけで一気に「おしゃれ」になる、ということを見せつけられた気がしました。このあたりの魅せ方は、これまでもさまざまな企画を仕掛けてきた銚子電鉄ならでは、と言ったところでしょうか。

座席

座席の様子(左/上)と座席脇の広告の一例(右/下)。ステンドグラス風の窓を移すために、あえてカーテンは閉めないで撮影しています。座席そのものは今回の改造で変わったわけではないのですが、古いながらもしっかりとメンテナンスされているためか、全国の地方鉄道に存在する京王OBの車両で散見される「座席モケットの擦り切れ」などは一切見られませんでした。

ドア脇には大正時代の広告をあえて入れる徹底ぶり。写真はいまでもたまに見かける「ボンタンアメ」の広告です。こちらは大正時代に実際に使われていたものだそうで…こだわりが凄いですねぇ。

車端部

車端部区画はこんな感じです。貫通路部分には、銚子ゆかりの画家・竹久夢二の美人画ののれんがかけられていますが、乗務員の方に伺ったところ、車掌や利用者の見通しをよくするため、運行中は基本的に写真の通り収納された状態にしているようです。

フリースペース

外川寄り運転台の直後には、車いすやベビーカーの利用者向けのフリースペースが。片側の座席を全て撤去してフリースペースとして使用しています。

大正時代のレトロな広告と、最新型のLCDモニタによる運賃表示器が仲良く並ぶ、なんとも奇妙な光景が繰り広げられています(笑)。

運転台直後の座席の様子(左/上)。こちらは優先席として使用されており、窓にもその旨のシールがありますが、近年JRや私鉄各社で一気に広まった大型のサインシールとは異なるデザインのものが使用されています。

写真(右/下)はドア脇のドアコックの様子。昔ながらの「非常装置」の文字が健在です。この表記は今回の改造前から(というか同車のデビュー時から)あったものですが、レトロな書体が大正ロマン一色の車内によく合っていると感じます。

その他の車内設備

天井の様子(左/上)と荷物棚の様子(右/下)。写真ではやや分かりにくいですが、大正ロマン電車への改装に伴って、蛍光灯は電球色のものに交換されました。

また、荷物棚も真鍮のようなややくすんだ金色に塗装されています。真鍮本来の質感は望めませんが、雰囲気は十分です。

車内の中吊り広告の一例(左/上)。こちらは大正14年(1924年)7月1日に銚子電気鉄道が直流600Vで電化された時のものだそうで、「電車開通」「約30分毎に発車」「7月1日から7日まで電車賃半額」などの文字が見えます。こんな貴重なものがまだ残っていたのか…ということだけでも驚きですが、中吊り広告まで「大正」を持ち込んでくるあたり、隅々までこだわった作りなのが垣間見える気がします。

写真(右/下)は窓開閉用のツマミ。こちらも真鍮カラーですが、よく見ると一般車とは異なるデザインのものが使用されています。旧型国電などで見られたそれのように見えますが、これはどこから持ってきたものなのでしょう?

通路の様子(左/上)。木目調のフィルムが張られていますが、明るい茶色ではなくあえて焦げ茶色を使用することでレトロ感を演出しています。また、座席下の金属製のカバーも床材の焦げ茶色に合わせて塗装されており、視覚的にも違和感のない仕上がりになっているように感じます。

写真(右/下)は、乗務員の方に許可を得た上で、銚子ゆかりの画家・竹久夢二の美人画ののれんを展開した様子。こちらは美人画をプリントした複製品とのことですが、圧巻の雰囲気でした。運行に差し支えのない範囲で展開する機会があってもいいように感じます。

ドアとおまけ

ドアの様子(左)。ドアも床材に合わせて焦げ茶色に塗装されています。

写真(右)はおまけで紹介。どうやら、このステンドグラス風フィルムを社内で作成していたところ、通りかかったネコ(しかも同社の工務課で保護している子猫とのこと)がフィルムを踏みつけてしまい、跡が残ってしまったようです。ならばせっかくということで、これも“子猫画伯”の「作品」として紹介しよう!ということの模様。よく見ると、確かに窓の右下あたりにネコの足跡と思われるものが残っています。

同社ではこの「大正ロマン電車」を「猫の手も借りて作った」と紹介していますが、「読んで字のごとく」猫の手を借りた、ということのようです。ちょっとした同車の見どころなので、乗車の時にはぜひ見てみてください。

概説

デビュー年:2018年(大正ロマン電車のデビュー年)

利用者に「古き良き日本」の雰囲気を味わってもらうという目的のもと、同社に所属する2000形1両を改装して2018年に登場。

内装には木目調の床材や、窓へステンドグラス風のフィルム張り付け、車内に銚子ゆかりの竹久夢二の美人画などを掲出し、など「大正ロマン」とされる雰囲気になるよう手が加えられている。

同車の改装にあたっては、2017年に銚子電気鉄道と株式会社金太郎ホームが締結した車両ネーミングライツの契約金によって賄われた。そのため、「金太郎ホーム号 大正ロマン電車」の名がつけられている。

銚子電鉄全線で使用されており、他の車両と共通に運用されている。

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