長野電鉄3500・3600系

長野電鉄3500・3600系

かつて「マッコウクジラ」の愛称で親しまれたという、営団地下鉄(現在の東京メトロ)日比谷線で使用されていた3000系。同車を長野電鉄が引き取って導入したのが、この3500・3600系です。営団時代から比較して、外装に赤い帯が巻かれている、長野電鉄のロゴマークが追加されたなどの変化はあれど、それ以外のフォルムは基本的に3000系時代の面影をよく残しています。
1992~1997年にかけて39両(部品取り用の2両を含む)が導入され、長野電鉄で一大勢力を形成。後継となる8500系が勾配の関係で入線できない信州中野~湯田中間では、本系列が専属で使用され、その傍ら長野駅にも顔を出すなど、オールマイティーの活躍を今日まで続けてきました。
しかし、営団でのデビューから50年以上が経過し、さすがに老朽化が無視できないレベルになってきたためか、2020年1月に同じ“日比谷線出身”の3000系(03系)による置換が決定。2022年4月以降、運用に入らなくなり、その後同年秋をもって完全引退となりました。
さて、さっそく車内に入っていきます。

モケット

(左)一般席    (右)優先席

撮影日時・場所

撮影日時:2020年3月4日
撮影場所:長野電鉄 長野駅・信州中野駅 車内

備考

座席モケットの種類は多岐に渡り、「モケット」では代表的なものを一例として掲載しています。

車内

3500・3600系の特徴として、「同じように見えて、実は内装の種類が多岐に渡る」ことが挙げられます。長野電鉄でのデビューから既に30年近くが経過し、同社でも様々な改造が施されてきたことによるものです。
というわけで、まずは比較的「多数派」な車内から。化粧板は営団地下鉄時代の改修工事で張り替えられたと思われる白色のタイプと、デビュー当時からのクリーム色(後述)があるのですが、こちらは白色の方。色のせいか、古めかしさを感じず、比較的明るい雰囲気の車内になっているように感じます。
あ、勘の良い方は、座席周りを見てすでに「おや?」と思っていることでしょうが(笑)、それについては後述します。

座席

座席の様子と座面のアップ。ドア間の座席は4人がけを二つ並べた8人がけです。座席両端の金属棒は緩やかな曲線を描いており、ドア側に座った時の横幅確保、立ち客スペースの明確化などの意図があるものと思われます。
経年からか、座席は腰掛けると「バフッ」という音とともに腰が沈み込むレベルに詰め物がヘタり切っていました。しかし、長野電鉄としての利用時間を考えれば、まぁ納得いかないレベルではありません。
ちなみに、窓にはわりと最近(2016年頃)まではロール式のカーテンがあったのですが、近年は撤去されてしまったようです。もっとも現存していた時から、下手に引き下ろすと壊れるのでは(カーテンが破けていてそっと扱わないと怖い、固着してそもそも降りない、など)、というような動作でした。メンテナンスの手間を考えると、いっそ撤去した方が良いというのは、理にかなった判断だと思います。

優先席

変わって優先席区画の様子。こちらは青みがかった灰色に、白グラデーションのかかったモケットが採用されています。モケット表面には、縦の窪みが一定間隔で入っており、実際に触れてみると、若干デコデコした触り心地でした。
このデコデコが滑り止めの役割を果たしているのか、実際に着座すると身体の安定性はまずまずです。内部の詰め物も一般席と比較して、(年数相応にヘタってはいますが)わりと張りがあり、居住性は優先席に軍配が上がりそうです。一般席と優先席、モケットは違っても、内部の詰め物まで違うのでしょうか…。気になるところです。

先述した「モケット表面の縦の窪み」を、より近くで見た様子(左)と、今や“絶滅危惧種”と言っても過言ではない「シルバーシート」の表記。JR東海から無くなったあとは、この長野電鉄がほぼ「最後のシルバーシート」ではないでしょうか。
なお、窓には「優先席」のシールが貼られていますが、各社で近年統一されたのとは異なるデザインのものが使用されています。

車内いろいろ

L2編成3612
「3500・3600系の内装には、実は種類が多数ある」というのは冒頭で述べた通りですが、以降、その内装の違いを少し紹介してみます。
まず、最後まで残った3両編成(3600系)のL2編成から。車内の化粧板は営団時代からのクリーム色ですが、見ての通り座席モケットが青いものに張り替えられています。詰め物も交換されているようで適度にハリがあり、良い意味でおよそ3500系の座席とは思えない仕上がりに。2020年3月現在、この座席は(私が確認した限りでは)このL2編成のみに搭載されていました。

N6編成3506
で、こちらはデビュー当時からの雰囲気を色濃く残すタイプ。化粧板は営団時代からのクリーム色、座席も茶色のパターンです。

優先席いろいろ

N3編成3503
「優先席」の項で紹介した座席は、3500・3600系のいわば「標準仕様」ですが、近年、その標準仕様を残す優先席は非常に少なかったりします。というわけで、項目を分けてこちらで一挙にご紹介。
まず、写真はN3編成の湯田中寄り先頭車である3503号車のもの。(左/上)の写真は「座面は標準のまま、背もたれもシルバー色」ですが、色合いも素材も全く異なるものになっています。他方、(右/下)は「座面は一般席、背もたれはシルバー色」というパターン。もはや「標準仕様」の面影はどこにもありません。予備部品が少なくなりつつあり、限られた予算で座席を提供するという「苦肉の策」なのでしょうが、ここまで“分かりやすい”のも珍しいと思います。
それにしても、このシルバーの背もたれはどこから持ってきたものなのでしょう?

左/上:N3編成3513右/下:L2編成3612
んで、N3編成の長野寄り先頭車の3513号車にある優先席はこんな感じ(左/上)。一見、「標準仕様」と同じように見えますが、こちらも座面が青いものに。先述した青モケットの座席かなと思いましたが、肌触りがどうも異なり、この区画だけの独自仕様のようです。
(右/下)は現在唯一3両編成として残るL2編成の優先席。こちらはワインレッドやえんじ色といった感じのカラーです。L2編成の優先席は、全てがこの色で統一されていました。

その他の車内設備

天井の様子(左/上)と荷物棚の様子(右/下)。冷房は写真奥(「新幹線eチケット」広告の奥)に備わっており、長野電鉄への移籍後に設置されています。

窓の様子(左/上)と、窓開け用のラッチ(右/下)。この「ラッチ」で開ける窓も、近年ではめっきり見かけなくなった気がします。
ちなみに窓とは全く関係ありませんが、(左/上)の写真の座席、冒頭「車内全景」でも述べたように、座面と背もたれの色が微妙に異なっている点に注目です。座面の色や材質から察するに、おそらく座面は東急・長野電鉄8500系から持ってきたのでしょう。優先席も含め、予備部品はぎりぎりで回している状況なのかもしれません。

通路(左/上)と連結部分の様子(右/下)。冬は結構な雪が降る長野電鉄沿線ですが、連結部分はそれなりにきれいに維持されていました。
上の項と関連する話ですが、通路の写真に写りこんでいる座席も、部位ごとに座席・座面の色合いが微妙に異なっています。色味が明るい方が東急・長野電鉄8500系の座席、より焦げ茶色に近い方が3500系本来の座席と思われます。

座席両端の仕切棒(左/上)と、非常通報器(右/下)をそれぞれアップでご覧いただきます。非常通報器の説明文も、昔ながらの書体でいい味出していますねぇ。

N7編成3517:扇風機

一部の車両には、営団時代に設置された扇風機が現在も残っており、(左)がその様子です。デザインにも何パターンかあるようですが、私が取材できたのはこの形式のみでした。この扇風機、中央部分をよく見ると「営団」時代のロゴが。東京メトロになった2004年から、(2022年現在で)既に18年が経過する中、現代まで残る貴重な逸品でした。

運転台直後

運転台直後の様子(左/上)。長野電鉄ではワンマン運行が行われていますが、運賃収受は各駅で行っており、運賃箱や運賃表示器といった旅客向けのワンマン機器は特段設けられていません。そのため、余ったスペースの有効活用ということなのか、この区画にはつり革が設けられています(右)。ちなみに、よく見ると運転台に車内に面したミラーがついており、これが唯一ワンマン列車らしい仕様と言えそうです。
(右/下)はつり革のアップですが、その上に「東急百貨店」の広告が。長野電鉄と東急、車両譲渡などで関係はあるものの、(東急の車両を同じく譲り受けた伊豆急や上田交通とは異なり)関連会社や子会社というわけではありません。単に、長野駅至近にある「ながの東急百貨店」の宣伝なのでしょう。

ドアと運転席

乗降用ドアの様子(左/上)。金属むき出しの無機質なドアとなっています。引き込まれ防止の観点からドア窓は非常に小さくなっており、立った姿勢でも景色は申し訳程度にしか望めません。余談ですが、この小さい「窓」はこれは営団地下鉄での「当時のトレンド」ともいえるもので、丸の内線用の2000系から半蔵門線の8000系に至るまで採用されていました。
写真(右/下)は運転席の様子。元々同車の速度計は、針が水平方向に動くタイプでしたが、1976年以降に改修工事が施され、現在のスタイルになっているとのこと。メーター周りが妙に新しい、というか「後付けされた」ように見えるのはそのためなのでしょう。

車両概説

デビュー年:1993年

長野電鉄3500・3600系は、営団地下鉄(現在の東京メトロ)で使用されてきた3000系を長野電鉄が譲り受けたもの。1993年から運用を開始した。2両編成と3両編成があり、前者が3500系、後者が3600系を名乗る。
基本的には営団地下鉄時代の仕様を踏襲するが、30パーミルを超える急勾配が連続する信州中野~湯田中間での運用に備え、抵抗器の増設、寒冷地に対応した工事などが行われている。また、長野電鉄に移籍して以降、ワンマン運転改造、冷房化改造、その他内装のマイナーチェンジなどが行われている。

2005年に元東急電鉄の8500系が導入され、老朽化した本系列の一部を置き換えた。しかし、勾配用の抑速ブレーキがない8500系は信州中野~湯田中に入線できないことから、3500系の2両編成が長らく専属で使用されていた。

2020年以降、後継となる3000系(元・東京メトロ03系)の導入に伴い本格的な廃車が開始。2022年秋をもって全車引退となった。

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